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【H×H イルミ】黒と白のアリア

第14章 災厄の到来


頭の中で再び楽団が進軍する。
金管。弦。合唱。
それぞれの音が絡み合いながら、一つの流れを作っていく。

イルミはふと考える。

音を引いたのはいいが、華がない曲だと思われるのも癪だ。第一幕から居眠りなどされたら堪らない。

「ティンパニ……か」

楽団員の中で、ひとりだけ目立たない男がいた。

演奏は堅実。
だが指示を守り、勝手な解釈を加えず、常に指揮を見ている。
決して派手ではないが、リズムは一度も揺らがなかった。

第一幕中盤はティンパニに任せよう。

地鳴りのような低音が劇場を震わせる。
観客は無意識に軍勢の進軍を思い描き、戦場さながらの熱気に酔うだろう。

大王も満足するはずだ。



イルミは一旦ペンを置き、山積みになった草稿に目をやる。
まだ足りない。全然足りなかった。
必要な曲数を考えれば、今ある楽譜などほんの一部に過ぎない。

金管、弦、合唱、打楽器。
それらを整列させようとすればするほど、手元の総譜には新たな改訂箇所が見つかっていく。

まだ直せる。
その考えを振り払うように、イルミは楽譜を封筒へ捩じ込んだ。

「リミットだ。これでいい」

納得させるように、イルミはそう呟いた。



宮廷の写譜師宛へ送付状を書いてから、イルミはペン先を宙に浮かせ数秒考える。

あの楽団員達のことだ。
今頃、無駄に豪華な劇場の楽屋裏で油を売っているに違いない。
待遇が少し改善されたからといって、急に腕が上がるわけではない。
あいつらは信用ならない。
念のため釘を刺しておくことにした。

イルミは再びペン先をインクに浸す。



グランツェ王宮楽団御中

第一幕分の楽譜を送る。
言うまでもない事ではあるが、手元に届き次第練習に取り掛かられたし。
なお、演奏技術上や歌唱上の音域に関する問題があれば、写譜師を通じて連絡されたい。
必要に応じて改訂を行う。

イルミ=ゾルディック



「これでよし」

最後の署名を書き終えイルミはペンを置く。

インクが乾くのを待つ間も惜しいと言うように、イルミは椅子から立ち上がる。

何時間座っていたのだろう。
肩や背中に重怠さを覚える。


第一幕分の大曲は書き終えた。
だがまだ全体の三分の一にも満たない。
一日でも早く楽団へ渡さなければ、本番で困るのは自分だった。
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