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【H×H イルミ】黒と白のアリア

第14章 災厄の到来


遠くから馬車の車輪の音が近づいてくる。

イルミの視線が動く。

門をくぐった王宮の馬車が、屋敷の前に止まった。


「来た」

イルミは僅かに身を乗り出し呟く。




まもなく執事が居間に入室する。

「イルミ様。王宮よりお届け物です」

差し出された封書は妙に分厚かった。
蝋封にはグランツェ王家の紋章が刻まれている。

イルミは受け取ると、その場で封を切った。

居間の空気が静まる。

キキョウもニナも何となく、イルミの手元を覗き込んだ。

封から取り出された羊皮紙の束は、想像以上に分厚い。

イルミは最初のページを開く。

一枚。二枚。三枚。
ページを捲る速度が少しずつ上がっていく。時折止まりまたさらに捲る。

居間の誰も声をかけられなかった。


やがて。

「……面白い」

ぽつりとイルミは呟いた。

ニナは思わず目を瞬く。
イルミがこんな風に声を漏らすのは珍しい。



ページを捲るイルミの手は止まらない。

物語は古典書を下敷きにしていたが、単なる焼き直しではなかった。

一幕では貴族達の滑稽さを笑わせる。
二幕では庶民の不満を代弁する。
そして三幕。気づけば、誰もが主演のヒロインの叶わぬ恋に胸を打たれる。

イルミは更にページを捲っていく。
登場人物の配置。
場面転換。
伏線。
全てにおいて無駄がない。

貴族を皮肉っているようでいて、完全には否定しない。庶民を持ち上げるようでいて、それだけでも終わらない。
どちらの客席からも拍手が出るよう作られている。

巧い。

しかも。ただ面白いだけではないのが厄介だ。
頭の中で音が鳴る。
ここは重唱。
ここは合唱。
ここは静かな独唱。
ここでオーケストラを切る。
自然と舞台が見えてくる。

作曲家にとっては最悪の台本だった。

曲が浮かんでしまう。浮かんできてしまった以上、もう無視はできない。
ページを捲るたびに音が生まれる。続きを読まずにいられない。

最後のページへ辿り着く頃には、既に何曲か断片が頭の中で鳴っていた。

イルミは作者名を確認する。


クロロ=ルシルフル。

誰だ。聞いたことがない。
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