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【H×H イルミ】黒と白のアリア

第12章 Cadenza(カデンツァ)※一部、微裏・怪我表現あり


イルミは黒馬にエレオノーラを乗せると、ゆっくり来た道を引き返す。

すると、遠くの方から馬の蹄音が近づいてくる。
遅れて走ってきた護衛達だった。


「殿下!! ご無事ですか!」

青ざめた顔で馬を降りる護衛騎士に、イルミは視線を向けると僅かに首を傾げる。

「随分掛かったね」

「申し訳ありません! 急なことで見失ってしまーー」

「騒がないでちょうだい。少し擦り剥いただけですわ」

エレオノーラはイルミの腕の中に横座りしたまま、小さく眉を寄せた。

ありえない。
あれほど「危険です」と大人達は口を揃えていた。そのくせ、肝心な時には王女である自分を見ていない。
これでは形式だけの護衛ではないか。

「ですが、一度こちらへ――」

護衛が手を差し出しかける。

だがエレオノーラはその手を見なかった。

「結構よ」

「殿下?」

「助けてくださったのは貴方達ではなく、先生ですもの」

護衛達が息を詰める。

エレオノーラは当然のようにイルミへ凭れた。

「このまま帰りますわ。ね、先生」

不意に呼ばれ、イルミは小さく目を瞬かせる。

「俺は別に。……重たいし」

「もっと、光栄に思ってくださいな」

「はいはい。王女様」

イルミは小さく息を吐く。

「……と言うことだから。城まで連れてくよ」

「はっ! 申し訳ございませんっ!」




夕暮れへ傾きはじめた草原を、黒馬がゆっくり進んでいた。

規則正しい蹄の音が、静かな草原へ柔らかく溶けていく。
風は先ほどより穏やかで、長い草の波が金色に染まりながら丘陵を流れていく。

遠くでは護衛達の馬が一定の距離を保ちながら静かについてきていた。だがその蹄音も今は不思議と遠い。


エレオノーラはイルミの前へ横向きに座ったまま、ぐったりと力を預けていた。
傷へ巻かれた布の下がじんじん熱を持っている。
馬が揺れるたび微かな痛みが走るが、不思議と先ほどまでより嫌ではなかった。
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