第12章 Cadenza(カデンツァ)※一部、微裏・怪我表現あり
イルミは空になった硝子瓶を無造作に草むらへ放る。
乾いた音を立て、瓶が草の奥へ転がった。
草原を風が渡る。
遠くで鳥の鳴き声がする。
暴れていた白馬の気配も、もうかなり遠い。
「…………はぁ……っ」
エレオノーラは浅い呼吸を繰り返したまま、うまく顔を上げられない。
内腿が熱を持って脈打っている。
イルミはそんな彼女をぼんやり見下ろしながら、何でもないことのように言った。
「ルドルフ大王の戦争に駆り出された連中なんて、こんなもんじゃ済まないぜ」
風が吹いた。
長い金髪が揺れ、草がさらさらと擦れた。
それからイルミは、ふと傷口へ視線を落とした。
「……ほら。女でよかったじゃん」
痛みは熱を残したまま皮膚の奥へ沈み込んでいく。
夕暮れの風が草原を渡り、火照った傷口をゆっくり撫でていった。
「……はぁっ……」
エレオノーラは乱れた呼吸のまま、小さく呟く。
「……先生って、…本当に…意地悪なのね」
「は?」
イルミはきょとんとした顔で首を傾げた。
「どこが」
エレオノーラはふいっと微かに濡れた瞳を逸らす。
それから伏せた睫毛の下で、ふと理解してしまった。
この男は優しくない。
けれど、“王女だから”と加減することもない。
最初から自分を壊れ物みたいに扱う男達より、ずっと誠実だった。