第12章 Cadenza(カデンツァ)※一部、微裏・怪我表現あり
「見せて」
短く言うと、イルミは彼女の手首を軽く退かす。
裂けたドレスの隙間から、白い皮膚が赤く擦り剥け、一部は浅く抉れていた。
「金具にでも引っ掛けたのか」
イルミはそう言い馬の側へ寄ると、鞍へ括り付けてあった革袋を外した。
中から取り出した小ぶりの硝子瓶の中で、透明な液体が陽を受けて揺れる。
「蒸留酒」
「……え」
「消毒しなきゃ」
イルミは短く答えると、膝をついた。
エレオノーラが小さく息を呑む。
イルミの指がドレスの裂け目へ掛かり、擦り剥けた内腿が露わになった。
「ちょ、っ……」
制止する間もなく、イルミは傷口へ蒸留酒を数滴垂らす。
「――ッ!!」
鋭い熱が皮膚を裂くように走る。
エレオノーラは思わずイルミの腕を掴んだ。
「我慢して」
傷の具合を観察するように視線を落としたまま、イルミは低く続ける。
「化膿したら痕が残る」
脅しにも慰めにも聞こえない。ただ事実だけを述べる声だった。
「…………っ、はぁ……」
エレオノーラは唇を噛み、乱れそうになる呼吸を必死に押し殺す。
イルミはそんな彼女を見下ろした。
「これくらいで痛がってるうちは、俺に勝てないよ」
それからゆらりと小瓶を軽く傾ける。
「……今の、ほんの少ししか使ってないけど」
「!」
エレオノーラが顔を上げた瞬間、イルミは淡々と言った。
「じゃあ、テスト終わり。本番やるね」
「ぇ――」
次の瞬間、イルミはエレオノーラの頭を引き寄せ、自身の左腕を口元へ押し当てた。
「噛んでろ」
そう言うなり、小瓶を傾ける。
透明な液体が傷口へ容赦なく流し込まれた。
「ん―――― っっ!!」
焼けつくような激痛が内腿を貫く。
エレオノーラは反射的にイルミの腕へ強く噛みついた。
イルミは眉ひとつ動かさない。
むしろ噛ませた左腕へ静かに力を込め、暴れないよう支えている。
「……っ、ぁ……ぅ……」
やがて力が抜け、エレオノーラは荒い息のまま項垂れた。