第12章 Cadenza(カデンツァ)※一部、微裏・怪我表現あり
エレオノーラは拗ねたように言うと、白馬の腹を軽く蹴った。
白馬は主人の昂りに応えるように速度を上げ、風が草原を切り裂く。
風を切った瞬間、鞍の下でほんの僅かに金具が軋む。
「あ、ちょ――」
エレオノーラは長い金髪を振り乱し振り返る。
「これくらい普通です」
だがその直後だった。
カチャ――ッ。
金具が嫌な音を立てる。
イルミの視線が一瞬エレオノーラの足元に落ちた。
「……え」
エレオノーラの身体がぐらりと傾いた。
慌てて足場を探るが、片側の鐙がない。
次の瞬間、馬が甲高く嘶いた。
突然バランスを崩した主の気配に反応したのか、白馬が勢いよく前へ駆け出す。
「っ……!」
風が爆発する。
エレオノーラは咄嗟に手綱へ縋るが、片足が外れた状態では体勢が保てない。
視界が激しく揺れる。
手綱を必死で引くが、白馬はぶるんと鼻息を荒げ、更に速度を上げる。
――落ちる。
そう思った瞬間だった。
後方からの蹄音が一気に迫る。
「手を離せ」
斜め後ろから声が聞こえた直後、イルミの腕がエレオノーラの腰を強引に攫った。
世界が反転する。
馬上から身体が浮き、次の瞬間にはエレオノーラは硬い胸へ叩き込まれていた。
イルミの馬が大きく地面を蹴る。
数歩荒々しく駆けたあと、徐々に速度が落ちる。
エレオノーラは息を詰めたままイルミへしがみついていた。
耳元で心臓の音が鳴っている。
自分のものか相手のものかも分からなかった。
イルミは片腕でエレオノーラを支えたまま、暴れて遠くへ走り去る白馬へ視線を向ける。
「大丈夫?」
「……え、ええ……ッ」
返事をした瞬間、内腿に鋭い痛みが走った。
イルミは小さく息をつくと先に馬から降り、横座りのエレオノーラに訊いた。
「降りれる?」
エレオノーラは頷く。
鐙へ足を探るように身体を動かした瞬間、内腿がずきりと痛んだ。
「……っ」
表情が強張る。
気丈に振る舞おうとするも、地面へ足を着けた瞬間、再び鋭い痛みが走った。
「……っ」
エレオノーラは思わず顔を歪め、その場へ崩れ落ちる。
咄嗟に押さえた内腿へ、イルミの視線が落ちた。