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【H×H イルミ】黒と白のアリア

第12章 Cadenza(カデンツァ)※一部、微裏・怪我表現あり


ビリヤードの次は乗馬だった。


「殿下、本当にお二人だけで行かれるおつもりですか」

少し離れた位置から、護衛騎士が困ったように声を上げる。

「遠乗りですのに。大勢でぞろぞろ付いて来られては興醒めですわ」

エレオノーラは白馬の上から涼しい顔で言った。

「ですが、万が一何かあれば――」

「何にもありませんわ。ねぇ、先生?」

エレオノーラが振り返る。

黒馬の手綱を緩く握ったまま、イルミは後方の護衛達へ視線を向けた。

「んー。別にいいんじゃないの」

気怠げな声だった。

「どうせ何も起きないように、そこから見てるんでしょ」

護衛達は苦々しい顔で視線を交わす。

「ほら。先生もこう仰っていますし」

エレオノーラは小さく笑った。

「もう。貴方がたは下がってなさい」

「…………承知しました」

護衛騎士は渋々頭を下げる。
それでも完全に離れる気はないのか、馬を視界へ入る程度の距離までゆっくり後方へ下げた。


エレオノーラは満足そうに白馬の首筋を撫でる。

「ようやく静かになりましたわね」

「……エレオって我儘だね」

「王女ですもの」

「開き直った」



白い石畳の広い大通りを抜け、人々が生活する間を抜け、更に外れると石畳が土道へと変わり始める。


午後の陽光が草原へ長く流れていた。

郊外の乗馬道は緩やかな丘陵に沿って続き、初夏の風が背の高い草を波のように揺らしている。


エレオノーラは白馬の手綱を引きながら、隣を並走するイルミへ視線を向けた。

「……随分ゆっくりですのね」

「危ないから」

即答だった。
イルミは前方へ視線を向けたまま続ける。

「エレオ、すぐ無茶するでしょ」

「子供扱いですの?」

「怪我される方が面倒」

イルミを運ぶ漆黒の馬は、ソックス模様の長い脚をゆったり運びながら、隣を歩く白馬へ歩幅を合わせていた。主人の気配同様に、走る気などないというように。

さらりと返され、エレオノーラは口を尖らせる。

「これじゃ勝負になりません」

「そんなに俺に勝ちたいの?」

「負けっぱなしなんて有り得ませんの」

「うーん。そんなこと言われてもね。どうやったら女相手に勝たずに済むのかな」

「女だからって馬鹿にしないでくださいな。これだから殿方は嫌ですわ」
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