第12章 Cadenza(カデンツァ)※一部、微裏・怪我表現あり
その頃にはもう、誰も指笛を鳴らしていなかった。
酒を飲む音すら消えている。
やがて誰も口を開かなくなる。
今ここで息を乱せば、自分まで視線を向けられる気がして誰しも身動きが取れなくなっていた。
コロン。
最後の球が落ちる。
乾いた音だけが静かに響いた。
初めてイルミはエレオノーラに視線を向ける。
「俺の勝ちだ」
エレオノーラは数秒遅れて息を吐く。
知らないうちに、ずっと呼吸を浅くしていた。
「……参りましたわ」
イルミはキューを台へ置いた。
「約束、忘れないでよね」
「ええ。執事へお伝え致します」
その返事を聞いても、イルミの表情は変わらなかった。
まるで、最初からこの結果しか見えていなかったみたいに。