第11章 Second Theme(第二主題)
「……でも、海って少し怖そうです」
「怖い?」
「さっきのお話を聞いてたら……嵐とか、船が沈むとか……」
「ああ」
ライネルは少しだけ笑う。
「それは商船の話だ。積荷を積んだ大型船は天候の影響も受けやすい」
「じゃあ客船は……」
「そこまで揺れないよ。商船と客船はそもそもの作りが違うし、もちろん天候次第ではあるけど、初めて乗る人間でも大抵は数日で慣れる」
穏やかな声だった。
安心させようとしているのが分かる。
なのにニナの胸は妙にざわついたままで、視線を彷徨わせてしまう。
その横顔を見たライネルは、静かに目を細めた。
海風に揺れる栗色の髪。
不安を隠しきれない細い肩。
庇護欲にも似た感情が胸の奥を静かに掠める。
まだ踏み込むべきではない。
そう理解しているのに――
ライネルの指先は、気づけばニナの髪へ触れていた。
小さな頬へ掛かった髪をそっと掬う。
指先へ伝わる柔らかさに、ライネルの喉が僅かに動いた。
そのまま硝子細工を扱うように、静かにニナの肩を抱き寄せる。
潮風と香木の混じったような匂い。
厚い胸板の熱。
日に焼けた首筋。
ニナの肩が僅かに強張る。
ライネルはそれに気づくが何も言わず、ただ耳元に近い低さで告げた。
「安心してくれ。急がない。来月じゃなくても客船は逃げたりしない」
それからニナの額にそっと口付けた。