第11章 Second Theme(第二主題)
「……ニナ」
ライネルの声で我に返る。
「あ……すみません」
「疲れたなら少し休む?」
その声は優しかった。
けれどニナは、自分でも説明できない違和感を胸の奥で感じていた。
この人はきっと、正しい。
正しく、穏やかで、誠実な人なのだと思う。
なのにどうして、自分の心はこんなにも静かなままなのだろう。
ライネルはグラスを静かに置き、立ち上がった。
潮風の吹き込むバルコニーの端まで歩くと、手すりへ緩く身体を預ける。
ニナも少し遅れて隣へ並ぶ。
「来月、一度西側の港へ戻る予定なんだ」
「港……ですか?」
「ああ。新しい航路の確認と積荷の調整でね。予定では数週間は向こうへ滞在する」
ライネルはそう言うと、手すりへ片手を預けたままニナへ視線を向ける。
「結婚後なら、一緒に来る?」
「……え?」
ニナは思わず顔を上げた。
「ちょうど客船も出る時期だ。仕事ばかりでは味気ないし、ハネムーンとしては悪くない」
“ハネムーン”。
その言葉に、ニナの胸が僅かにざわつく。
来月。
その短い響きに、ニナの胸が小さく強張る。
結婚も、港も、船旅も。
まるで遠い誰かの話のようだったものが、急に手の届く場所まで近づいてくる。
ニナは落ち着かないまま視線を伏せた。