第11章 Second Theme(第二主題)
ニナはその沈黙に気づかないまま、小さく視線を落とす。
「音楽は好きです。でも……深く関わるのは少し怖くて。実家でも苦労を見てきたので」
「怖い?」
「はい……。音楽で生きていく人って、何を考えているのか分からなくて」
そう話すニナの表情が、ほんの僅かだけ困ったようになる。
ライネルは直感した。
ニナの心は今誰かに触れている。恐らく本人は無意識に。
ライネルは静かに目を細める。
「……でも、嫌いではないんだろう?」
「え……?」
「本当に興味がないなら、“分からない”まま終わる」
その低い声に責める響きはない。
むしろ、相手の内側を丁寧に探るような声だった。
ニナは言葉に詰まる。
軒下へ差し込む雨音が床を叩いている。
「はい。嫌いでは、ないです」
はっきりとした返答だった。
ライネルはその声を聞き、静かに目を細める。無意識のままニナが語るその熱が、ライネルの胸に仄かな火を灯した。
「それなら十分だ」
ライネルは続ける。
「パドキアの名士であるゾルディックとの繋がりは、確かに僕にとっても重要だ」
グラスを置く。
「でも、それだけならわざわざ君をここへ呼ばない」
「……え?」
ライネルはニナを真っ直ぐ見た。
「僕が興味を持っているのは、君自身だ」
「ライネル様……」
ニナの栗色の髪が風に舞う。
初めて会ったのに不思議と怖くはない。話しやすいし、気も遣ってくれる。
公爵家当主代理という立場を考えれば、驚くほど穏やかな相手だった。
――なのに。
ふとした沈黙の瞬間。
雨音の奥で、ニナの脳裏に別の音が蘇る。
低く沈むピアノの和音。
夜の廊下へ流れていた旋律。
喉元へ絡みつくような、あの不安定なテンションコード。
ニナは無意識に指先を強く握りしめる。
ライネルはそんなニナを静かに見ていた。
ここにいない誰かの気配を測るように。