第11章 Second Theme(第二主題)
グランツェの劇場は、昼間でもどこか薄暗かった。
高い天井に吊るされたシャンデリアは火を落とされ、舞台上には大道具の骨組みだけが半端に残されている。
床だけが取り繕うように磨かれ、誰かが書き散らした台本の草稿が数枚転がっていた。
イルミはその一枚を拾い上げ、軽く目を通す。
「……なにこれ。酷い」
「でしょう?」
エレオノーラは苦笑混じりに肩を竦める。
深紅のドレスの裾を摘み、そのまま舞台袖の椅子へ優雅に腰掛けた。
「戦前は東側の作家達が優秀でしたの。恋愛も悲劇も、あの国では皆どこか取り憑かれたみたいに書くでしょう?」
「ふぅん」
イルミは興味薄そうに、紙をひらりと投げた。
「でも今は難しいのですわ。敗戦国の作家を使うなと貴族達が騒ぎますし、かと言ってグランツェの作家は軍歌みたいな台詞しか書けませんもの」
「才能ないんだ」
「ええ。致命的に」
さらりと言い切るエレオノーラはそう言って薄く笑う。だが目だけはまるで笑っていなかった。
イルミは舞台を見上げた。
巨大な劇場。
金の装飾。
何十人もの楽団員。
大勢の歌手。
それだけ金を掛けながら、
中心になる言葉が空洞だった。
「それで?」
「現在募集中ですわ。誰に書かせるかで毎日揉めておりますの」
「へぇ」
「保守派は愛国劇を書けと言うし、スポンサーは恋愛劇を望むし、軍関係は勝利の象徴にしたがるし……正直うんざりですわ」
エレオは長い息を吐いた。
イルミは無言でピアノの鍵盤を軽く鳴らす。乾いた音が空席の劇場へ飛んでいった。