第2章 歪んだ共鳴
ある瞬間――ピアノの音とニナの歌声がふと、噛み合った。
ピアノは途切れなくなった。
これまでどこかずれていた旋律が、完全に繋がる。
イルミの長い指が駆け出して奏でる妖艶な響きにニナの透明な歌が溶け込み、一つの音楽として息づき始めた。
わずかに光を返す袖の刺繍がニナの目に一瞬飛び込んだ後、低く濁る響きが足元から這い上がる。逃げ場を探す間もなく音が強引に内側へ入り込んでくる。
喉が、勝手に震える。
声が細く引き伸ばされ自分のものではないように揺れる。
鋭く歪んだ和音に心臓を掴まれるように鼓動が乱れてゆき、呼吸の位置がわからなくなる。
それでも音は止まらない。
解決を与えないまま転がり続ける。
なぞられる。
こじ開けられる。
引きずり込まれる。
低音と高音、ピアノと声が、抗う隙もなく噛み合っていく。
部屋の中に危険なほどに美しい旋律が満ちた。
指先が旋律をなぞりきり和音に落ちる。
遅れて、細かな音の粒が空間にほどけて静かに降り積もる。
イルミの指は寸分の狂いもなく鍵盤を捉えていた。
まるで人形のように感情を排した正確さで。
だが――
一瞬だけ、音の繋ぎが歪み、イルミの眉が僅かに寄る。
「…………成立してる」