第2章 歪んだ共鳴
間を置かず、イルミは再び指を動かし始めた。
ニナも歌い続ける。
完璧に重なり合う音楽は、確かに美しく、闇の魅力を増していた。
イルミは演奏を止めなかった。
何かを確かめるように指を滑らせ続けた。
やがて、突然――
イルミの指が鍵盤から離れた。
音楽が、唐突に途切れる。
吐息がふっと漏れた。
すぐにいつもの冷たい表情に戻ったが、黒いジャケットの胸元がわずかに上下している。
「……もういい。今日は充分だ」
イルミは立ち上がると、近くのテーブルから数枚の楽譜を取り、ニナの方へ無造作に差し出した。
「これを覚えろ。次はもっと正確に」
「……はい」
ニナは両手で楽譜を受け取り、軽く頭を下げた。
イルミはそれ以上何も言わず、窓の外の濃い霧を見つめる。
作曲家としての彼は、ようやく自分の曲が「完成」する可能性に気づいていた。
ニナの歌を乗せればこの曲は本当に完成する。
しかし、その事にイルミはまだ、強い不快さを覚えていた。
「もう少し、検証が必要だ」