第24章 グラーヴェに堕ちゆく【浴】
「七海サン、ずっとついてる気っスか?」
「えぇ。今の私には、それくらいしかできないので」
コーヒー缶を買ってきてくれた猪野に礼を言うも、左腕に力が入らず、プルタブを起こせないことに気づいた。
「あ、すみません……」
猪野が七海からコーヒー缶を受け取ろうとする。だが それより早く、部屋に入って来た灰原が七海の手からコーヒー缶を取り上げ、プルタブを起こして差し出してくれた。
「はい、七海」
「ありがとうございます」
こんな簡単なこともできないのか。自分が嫌になってくる。
「そんな顔するなよ、七海。リハビリすれば、少しは動かせるようになるって家入さんも言ってただろ?」
「ですが……術師としては致命的です。前線に立つのは無理でしょう」
こうして、彼女は命懸けで戦っているのに……自分は安全な場所で待っていることしかできない。
今までできていたことができない。少なくとも、一級術師として戦えたなら、死地に向かう彼女の隣に立ち、力を貸せただろう。だからこそ やるせなかった。
そんなことを考えていると、不意に星良の身体がビクッと跳ねた。
「星良さん……⁉︎」
コーヒー缶を取り落としたことにも気づかず、七海は星良に駆け寄る。すると、ビクビクッと身体が痙攣し、彼女は血を吐き出した。
彼女は何と言っていた?
万一、ヒトガタが殺されるようなことがあれば……。
――「死の衝撃が本体に跳ね返って……最悪 死ぬこともあります」
「星良……!」
取り繕うことも忘れ、七海は星良を……婚約者の名を呼んだ。