第13章 13.
「落ち着いた?」
「ん、」
ぼんやりと窓の外を見ている侑士の手を取る。
「痛む?」
「いや、」
「ならよかった。
しばらく、農具を持ったり包丁を握ったりは難しいわね」
指先に力が入りづらいでしょう、と手の甲から両手を包み込む。
「役立たずや」
「そんな事無いわ」
「何もできひんのに?」
「本を読むことはできるわ。
調理場と畑仕事はお休み。
その間に、また、医学のことを教えましょう」
「うん、」
覇気の無い侑士の頭を撫でる。
「あなたは本当によく働いてる。
今日は、お休みにしましょう。たまには休まなきゃ
なにかやってみたいことや知りたい事は無い?」
「なんやろ...」
「ゆっくり考えていいわ」
なんやろなぁ、と診察室の窓の外を見る。
「せんせーは、人を好きなったこと、ある?」
ぼんやりと向けられている侑士の視線の先を見る。
「それは、恋愛として?」
「...うん」
そうねぇ、と紫陽が開け放った窓から心地よい風が吹き込んできて、侑士は目を閉じた。
「無いかな。
人として魅力は感じても、じゃあ、ほかの人と何か違う特別なものは無かった。
男女年齢関係無く、『何かが特別』と感じたことは無かったかな」
「特別な、もの...」
「侑士には、そんな人がいる?」
「...俺も、おらんなぁ」
椅子から立ち上がると、風に舞い上がったカーテンをつかまえて、窓際に立った侑士は、ふわりと身を包んだレースのカーテンを弄ぶ。
「『好意』と『性欲』って、基本、別もん?」
「...とても難しい疑問ね。
イコールである人もいれば、まったくの別物という人も、いると思うわ」
「彼女は、なして俺やったんやろうか...」
「聞いてみたら?
あなたも知らないあなたの魅力に気づけるかも」
「変な奴やと思われへん?」
「そんなこと無い。
自分のどんなところが好きか教えてくれるなんて、素敵なことよ。彼女なら、きっと答えてくれる」
「自分ん事、なんか知れるんかなぁ」
「もしかしたら、前にも同じようにあなたを好きだと伝えてくれた人を、思い出せるかもしれないわ」
微笑んだ紫陽の後ろで、レースカーテンが風に広がる。
侑士、見てっ!
なんやそれ
結婚式の練習っ
「ん?」
「どうしたの?」
初めて聞いた声に、なんも無い、と目を擦った。
✜