第21章 21.
「行くで」
待って、とヨロヨロと構える相手を無視し、ボールをコートに2回、打ちつける。
左手で放り上げた球を、少し重い、と感じるラケットで打った。
それまでの試合とは比べものにならないスピードと回転で走り抜けたボールは、コートの中に擦過痕をつけて跳ね返った。
なんとか追いつこうと男性プレーヤーが伸ばしたラケットよりも速く、ボールはコートの外に跳ね飛ぶ。
「こ、コートチェンジ」
審判役が、まるで傑物を見るように、コートを移動する侑士を見ていた。
「次のゲーム取って、トントンやな」
いけるやろ、と、木製のラケットをくるり、と回した侑士にひのはが声をかけた。
「本当に、テニスのご経験は無くて?」
「無いで。
とりあえず、線から出らんように、相手が打ち返せへんように打ち返しとるだけや」
「そうですの...」
ひのはが侑士に向ける目が、これまでのキラキラとした少女の瞳から、畏怖さえ含むようなものに変わった。
(来るっ)
前衛に出ようとした男性選手は、足を止めてコート後方で構えた。
「え、」
「はっ?」
「うそっ」
ラケットを頭上に構えただけでほとんど振らなかった侑士。
確実に捉えたボールは、ネットを越え、こちら側の際に音もなく、跳ね返りもせずに落ちた。