第21章 21.
男女の組み合わせ二組が、侑士の腰より少し低いくらいの高さのネットを挟んで、小さなボールをラケットで打ち合っている。
「ラインの中で跳ね返ったボールを打ち返せないまま、もう一度コート内でボールが跳ねたり、枠の外に出たりしたら、打った人の得点。
打ち返せたとしても、ネットに当たったり、跳ね返ることなくコートの外にボールが出てしまっても相手の得点よ」
紫陽の説明に、なるほど、と試合の様子を見る。
「あ、」
「あら」
勢いよく振られたラケットで跳ばされた球を、もろに鳩尾に食らったのは、ひのはとペアを組んでいた男性プレーヤー。
腹部を押さえて蹲った彼に、紫陽と侑士はコートに降りた。
「ううっ」
「少し冷やした方が良さそうね」
悪かった、と申し訳なさそうな相手の男性に、手を挙げて合図した負傷選手は、鳩尾を抑えながらコートの外に出た。
「どうなさいます?ひのは嬢」
彼女と対戦していた令嬢は、他にどなたか...と長い髪を指に絡めつけた。
「棄権されても、こちらは一向に構いませんけど」
どこか見下すような彼女の目つきに、(嫌な女やな)と、侑士は顔を顰めた。
「それか、後半は、シングルスに変えます?」
追いつけるかしら、とスコアボードを横目に見た。
ボードは、0-2。
あと2ポイント取られたらこのゲームは終わり。前2つのゲームを取られているひのはは、この一つを取られたら試合に負ける。
他にペアを組む相手はいないようで、ギュ、とラケットを抱え、下唇を噛むひのは。
「ペア、途中で変えるんて、ルール的にありなん?」
棄権退場した男性プレーヤーのラケットを拾い上げた侑士。
「まあ、どなたかいらっしゃると言うならば、構いません」
まさか、と、口元を手で隠して笑う令嬢。
「あなたが?」
「ルールは大体、見てわかったわ」
「テニスのご経験は?」
「多分、無いで」
けど、と、侑士はコート内に転がっていたボールを拾った。
「自分、なんや気に入らへんから」
「まあ」
侑士、と不安げなひのは。
「足、引っ張ったら堪忍な」
なぜかは分からないが、負ける気は、しなかった。
✜