第13章 13.
(俺は、ほんまは、ここにおったら、アカン...?)
「侑士さん?」
(出ていかなアカン...?
紫陽先生に、『医学』は、教えてもらわれへん...?)
「侑士さんっ!」
「えっ?
っあっち!」
ガチャン、と音を立てた天板に乗っていた鶏肉と野菜は、程よく焼けている。
考え事をしていた侑士は、焼きたてのそれを素手でオーブンから取り出そうとしていた。
「早く冷やさないとっ!」
「あ、」
空木に手を引かれ、洗い場の蛇口から捻り出した水に手を晒す。
「オーブンの中は200℃以上にもなりますっ
中のものを出す時は、ミトンを使わないとっ」
「すんません、忘れとった...」
「手の感覚はありますか?」
じんじんとする右手に、ある、と頷いた。
「紫陽さんの所へ行きましょう。
手の麻痺でも残ったら大変です」
「大袈裟やって、こんくらい...」
水で濡らせば、と言いかけた侑士は、なにをバカなことをっ!と振り返った空木の鋭い視線に、う、と身を縮こませた。
「今、こうしてここにあなたがいるのはっ誰のおかげですかっ!?
その体を無下にすることなど、紫陽様への愚の骨頂っ!
あなた、どなたに助けていただいたと思ってるんですかっ!?
毎日、朝起きて食事をして、夜、何の不安も無く『おやすみなさい』とベッドに入れているのは誰のおかげですかっ!?
あなたはあなたを大切にする義務があるのですよっわかっていますかっ!?
紫陽様の努力によって保たれているこの場所で大きな怪我をすれば、紫陽様が維持されているここの安寧が脅かされのですっ
それを自ら起こすなど、子供たちや我々の安心や安全を第一考えておられる紫陽様への侮辱そのものですっ」
空木の勢いに、ご、ごめんなさい...と言うしか無く、赤くなった指先に目を向けた。
「仕方がない部分があることは理解します。伊達におとなでは無いので。
しかし、あなたはあなたを軽視しすぎている。
もっと、あなたという存在がとても重く、大切であることを理解なさってください。
それが紫陽様への敬意であり、最低限の尊厳である筈です。
少なくとも、あなたは、ここに居場所を持つ存在なのですから」
空木の言葉に、指先を見る侑士の視界は徐々に溺れていった。