第12章 12.
診療所のデスクで、侑士は医学書を教科書に勉強していた。
西向きの開いた窓から吹き込む心地よい風が、まっさらなカーテンを揺らしている。
診療所まで来ることが難しい、高齢者や足が悪い患者の家を回って診察をする巡回診療に出た紫陽が帰ってくるのは、2時間後だ。
文字を追って疲れた目を休めようと、椅子で背伸びをして、40分ほど前に空木が置いていってくれたマグカップの甘いお茶を飲む。
ガタッ
不意に窓から聞こえた物音に、ビクッ!と振り返る。
「なんや...?」
ネコ?とおそるおそる窓に近寄る。
開いた窓からそっと顔を出す。
「だ、誰かおるん?」
子どもたちか?と視線を下ろす。
「あっ!」
「?」
「わっわっ、」
侑士を見上げて、口をパクパクとさせているのは、青みがかった黒髪がウエーブした少女と言える年頃の女の子。
「えっと、なにしてるん?」
窓下にしゃがみ込んでいる彼女に問いかけた。
「あっ、あっあっ」
プルプルと震える少女の顔に、なあ、と手を伸ばす。
「熱あるんちゃう?」
綺麗に切り揃えられた前髪をめくって額に手を当てる。
「ちょっと熱いで?」
中で診よか?と言うと、ブンブンと首を横に振った。
「こっこれ!」
「え?なに?」
「あ、あなたにっ」
「俺?」
少女が震える手で差し出したのは、赤いリボンで結ばれた白いハンカチ。
なに?と差し出した手にそれを置くと、少女は駆け出した。
「あ!なぁ!これ、なに?
どうしたらええん?」
ピタッ!と立ち止まった少女は、まだ赤い顔で振り向いた。
「明日っ待ってます!」
「は?」
また駆け出した彼女に、なあ!と声をかけるが振り返らなかった。
「どこで待っとる言うんねや...」
そんでなんやねん、これ?と、レースの縁取りがあるハンカチに視線を落とす。
「?なんか入っとるんか?」
リボンを解くと、中には幾つかの小石が詰められていた。
「なして小石...?」
意味がわからん、と手一杯の小石に首を傾げた。
「おーい!侑士ぃ」
「遊木はん、」
「暇ならちょっと手伝えよ」
ほれ、と如雨露と柄杓が入ったバケツを掲げる彼に、手元の小石を見てから、わかったわ、とそれをポケットに押し込んだ。
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