第2章 2.
街を離れ、住宅街を抜け、山の道を登る車。
「あら、うさぎ」
あなた轢いちゃうわよ、と舗装されている道の脇の茂みから顔を出している野ウサギの横をゆっくりと通る。
サイドウインドウに額を擦り付けて野ウサギを見送ると、あの、と振り返る。
「撃たんのですか?」
そう言って、柔らかい膝のクッションを抱き締めた。
「ここではハンティングを禁止してるの。
うさぎもいるし、シカ、イノシシ、アナグマ、イタチ、キツネなんかもいる。キジとサルも見るわね。
あけびやわらび、ぜんまいなんかは取るけど、動物たちには干渉しないようにしてる。
そもそも、彼らのテリトリーに勝手に入ってきたのは人間である私たち。
間借りさせて貰うかわりに、ドングリや栗の木の手入れをして、間引くついでに少し、自然の恵みを頂戴してる」
坂を登りきると、拓けた土地は畑だった。
「今は、水菜、ブロッコリーなんかの春野菜を育ててるわ。
そうだ。
最後のいちごが残ってるから、デザートに食べましょう」
「い、ちご...?」
「赤くて甘い実よ」
赤い、甘い...
そんな液体を飲まされた記憶があった。
あれを飲むと、身体が熱くなり、自分が自分でなくなるような感覚がするのだ。
それを思い出して、ギュ、とクッションを抱くと、寒い?とずれたひざ掛けをかけ直してくれた。
家に着くと、大きな鉄門が勝手に開く。
その少し先に車を止めると、後ろで重々しく鉄門が閉じた。
「歩ける?」
わざわざ車を回って扉を開け、ぶつけないでね、と上部の枠に手でクッションを作ってくれる。
包まっていたひざ掛けとクッションを返そうとすると、気に入ったのなら使って、と言ってくれて、ありがたく一緒にくるまった。
大きな布にくるまれると、なぜか落ち着く。
手を引かれてお城みたいな建物の外階段を上がると、正面の大きな扉が開いた。
「「「「「おかえりなさいませ」」」」」
その先で、同じ角度で頭を下げる人、人、人に、うわ、と腕のなかのクッションを潰れるほどに抱く。
「先程、榊様がお見えに」
「あら、要件は?」
「いえ、近くに来たから顔が見れたら、と」
「そう。
あ、空木さんはいる?」
「はい、調理場に」
「消化にいいスープか何か作ってもらえないか聞いてくれる?」
かしこまりしました、と女給仕は恭しく頭を下げた。