第1章 1.
「あのねぇ!ワゴンならまだしも、あなたの背丈じゃ座るどころか蹲ったって入れないわよ。
ほらっ、ここに座る」
「すみません、失礼します」
おどおどと乗り込むと、見ているこっちが腰が痛くなりそうなほどに背を伸ばして、膝に手を置いて座った。
「背中、預けたら?」
「えっと」
視線が定まらない彼に、傷だらけだった体を思い出す。
「ごめんなさい。気付かなくて」
手を伸ばし、後部座席から大判のひざ掛けを取り出す。
「今から私の家に行くわ。
疲れてるでしょう。
1時間ちょっと走るからね」
はい、と膝掛けを隣の彼に渡すと、小さな動きで広げる。
「なに?」
「え?」
いそいそと運転席の自分の膝にそれを置く彼が顔をあげた。
「貴方が使うのよ」
「おれ、が...?」
「背中の傷、痛むでしょう?
傷まない所に挟んで、傷に当たらないようにして」
枕にしてもいいけど、とエンジンをかける。
温まった風がエアコンから流れ込む。
ひざ掛けを手に悩むと、あ、とそれを腰にかけた。
なかに潜り込ませた手がもぞもぞと動く。
少し座る位置を整えると、シフトレバーにかけていた手を掴まれた。
「失礼します」
さっきから、少し言葉に訛りがあるな、と彼を見る。
「なにをしてるの?」
「え?」
その「え?」は何回目だろうか、と掴み寄せられた手がひざ掛けの中で触れたものに溜息をつく。
「あのね、もう、しなくていいの
そういうことは」
瞬いて首を傾げる姿は、かわいらしくもあった。
「跪かなくていいの。
楽な話し方をしていいの。
身体にむやみに触らせることもしなくていい。
これからは、日の下で人として生きるの。
ほら、服も下着もちゃんと着る。
ただでさえまともな免疫無さそうなんだから、風邪引いただけで致命傷よ。
ああ、そうだ。クッションがあったわ」
シロクマを模した小ぶりなクッションを彼の膝に乗せた。
「食事、まともにとってないでしょう?
スープなら飲める?
口にすると痒くなったり息苦しくなるものは?」
「...ペニスと、精液」
はあ、とハンドルに額をぶつけた。
「あと、ネズミと黒とか灰色んなったパン。
出したもん食うたら、吐きそうなる」
「わかった。もういいわ」
野菜は好き?と聞くと、た、ぶん?と首を傾げた。