第1章 1.
(意外と動きが機敏)
ベッドを立つと、彼も立とうとした。
「まずは体を清潔にしてきなさい」
「はい」
脱衣所もないシャワーブースをちら、と見た。
袋の中のものをベッドに出して並べる。
「着替えて。全部よ。
脱いだものは、袋に入れて」
「はい」
素直に頷くと、何のためらいもなく立ち上がって下着を脱いだ事で、これまで彼が受けてきた扱いが手に取るようにわかった。
物珍しそうに綿のシャツとパンツを摘んだり、匂いを嗅いだりしている。
「嫌な匂いがする?」
はっとした彼は、とんでもないです!と声を張った。
「なんも匂わへんですっ
なんか、繕うてすぐみたいな、」
「新品ですから」
「しんぴん...」
さら...?と下着をつまむ。
「それはもう、あなたのものよ」
「俺ん、もん...」
「私には大きすぎるわ」
肩を竦めて見せると、シャツと何度も見比べて、確かに、と漏らした。
「シャワーの使い方はわかる?
傷にしみると思うけど、時間をかけていいから」
「あ、はい」
下着と服を両手に抱えると、失礼します、と恭しく頭を下げてシャワーブースへと向かった。
しばらくして、シャワールームの扉が開いた。
物音のあと、あったかい、と呟いた声に振り返ると、きちんとスウェットを着ていた。
「傷に滲みたでしょう。
けど、早いうちに清潔にしておかないと膿むから」
服に隠れたミミズ腫れやケガを思い、まずは体を休ませなきゃ、と紙袋に布切れのような服を入れて、ベッドに放った。
「なにか持ってるものはある?」
「なんも...」
そりゃそうか、と部屋を見渡す。
行きましよ、と見た彼が履くスニーカーの紐は、ダラリと落ちている。
足元にしゃがんで、手早く結ぶ。
「あ、そ、そんなっそんな!」
「結ばなきゃコケるでしょう。
よし、行くわよ」
「あの、に、荷物をっ」
「けが人が何言ってるの」
差し出してきた手を取ると、あ、と固まった。
手を引いて歩き出すと、案外しっかりとした足取りでついてくる。
乗ってきた車に着くと、乗って、と助手席のドアを開ける。
「え?こ、ここに?」
「あ、後ろがいい?
ちょっと悪路を行くけど、車酔いはしない?」
「いや、え?こっち...」
彼が指さしたトランクに頭を抱えた。