第11章 11.
(どないせぇ言うんやっ)
陣痛が引いたのか、ゼーゼーと息をしながら横たわるリツの母。
「なあっ紫陽先生呼び戻せないのかよっ」
「っ隣町行ったってことしかわからへん」
「多分、医学書や医療品の調達に向かわれたので、あちらこちらに行かれているかと...」
「紫陽先生っ帰ってきくれよぉっ」
とうとう泣き出してしまったリツ。
「っおいっ!このあたりで一番早い馬、連れてこいっ」
立ち上がったのはリツの父親。
「父ちゃん...?」
「俺が馬で隣町まで紫陽ちゃんを探しに行くっ!
リツ!お前ぇ、母ちゃんと赤ん坊のこと、守れるな?」
部屋にあった鞍を抱えたリツの父。
「しかし、紫陽様の所在が...」
「隣町までかっ飛ばして、駆けずり回るっ
それしか無ぇだろっ!」
「ですが...」
「苦しんでる女房見ながら、ただ待てってのかよっ!?」
ガンッ、とリツの父が蹴った椅子が転げ倒れた。
「葵はん、」
「侑士さん?」
「リツんオカンこと、見とったって」
「え?」
「なあ、リツのおっちゃん、これ、借りてええ?」
床に転がっていた鞍を侑士は抱え上げた。
「構わねぇが...」
「しかし、侑士さん、馬は...?
余程の駿馬でないと、時間がありませんし、紫陽さんを探せるか...」
「いっちゃんええやつ、おるやんか!
俺、行ってくるっ」
「っ侑士さんっ」
鞍を抱え、侑士は家へと駆け戻った。
建物の横を通り抜け、畑の先の山を目指す。
「シルキッサー!」
はあ、はあ、と上がる息を整え、肺いっぱいに息を吸い込む。
「シルキッサー!!」
サァ、と風が抜ける音だけが聞こえると、ハッと振り返り、厩舎へ駆け向かった。
わずかに開いている扉の隙間から飛び込むように駆け込むと、バケツの水をごくごくと飲んでいるシルキッサがいた。
「シルキッサ!」
どうした?と言いたげな目を、聞いてやっ!と見つめる。
「めっちゃ急いで、紫陽先生見つけたいねん。
協力してくれへん?」
頼む!と鞍を差し出すと、それと侑士の顔を一瞬見比べて、緩やかに背を落とした。
紫陽が鞍を手にした時と同じ体制だ。
「っええ子っ!おおきになっ」
ギュッと首に抱きつくと、急がなくていいの?と言いたげに鼻先を侑士に擦り付けた。
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