第11章 11.
どの程度までできるかは分からない、という葵とリツの自宅に向かう。
「母ちゃんっ!」
「リツっ!紫陽ちゃんはっ!?」
リツの自宅のベッドには、脂汗をかいた腹の大きな女性が寝ており、その傍らで雑貨屋の店主であるリツの父親が、大丈夫だ!リツが紫陽ちゃんを呼んでくる、と彼女の手を握りながら声をかけていた。
「紫陽様は今朝から外出されており、不在です」
「なっなんだって!?」
葵の言葉に、そんな...とリツの父親はリツの母親を見た。
「私が、できる限りはしますっ」
「あ、ああ...頼むぜ、葵さん...」
リツの母親に駆け寄った葵は、持参した医療器具で胸の音を聞き始めた。
(脂汗...頻呼吸...出血...腹のでかい妊婦...)
苦しげなリツの母親に、侑士は、落ち着け、と目を閉じて深呼吸した。
「なあ、子ども、どんくらいなん?
生まれておかしないんか?」
どうなん?と侑士に聞かれた葵は、聴診器を外し、どうなんですか?とリツの父親を見る。
「紫陽ちゃんには、次の満月頃には生まれるだろうって...」
「満月...」
「昨夜は、十三夜でした」
葵の言葉に、ちと早いんか、と考える。
「っぅあああぁぁあっ!」
痛いっ!と叫びを上げたリツの母。
その声に、「『陣痛』やっ」と侑士。
「多分、生まれそうなんや」
「ああっ!?
けど、出産は満月の頃だって...」
「『満月の頃』言うたって、満月びったしに生まれるわけ無いやろっ
これは、切迫早産や」
「切迫早産...」
ええっと、と侑士は頭を抱えた。
「思い出せ、思い出せ...
産科学や...ええっと、痛みが来たらいきんでもろて...」
紫陽に学ぶ医学を必死に思い出し、せや、と顔を上げる。
「湯、沸かしてくれっ!ありったけ!
ええっと、手、つけて心地ええくらいの温度のお湯!
ほんで、清潔なタオルもありったけ!
っせや、産婆はん!産婆はん、おらへんのっ!?」
出産時に母親をサポートする医師とは別のベテランがつくことがある、と紫陽は言っていた。
「それが、先月亡くなっちまって...」
「っ嘘やろ!」
この町唯一の産婆は高齢で、老衰で亡くなったばかりだった。