第11章 11.
朝食後すぐに外出した紫陽に許可を得て、診察室で勉強をしていた侑士。
心臓が止まれば生き物は死ぬのか、とヒトとウシの内臓を比較して各臓器の機能の役割を説明している文章と図解に目を通す。
「あ、血って温いんや...
冷めたら固まる性質...ニワトリん卵と逆やな」
あれは焼いたから固まるもんな、とページを捲る。
「紫陽先生っ!」
バタン!と扉を蹴破るようにして駆け込んできたのは、町の雑貨屋の息子、リツだった。
本から顔をあげた侑士は、顔見知りの彼に、せんせーいてへんよ、と椅子にかけたまま答えた。
「どこ行ったっ!?」
「隣町んに、買い物に」
「いつ行った!?
すぐ帰ってくるっ!?」
「えっと、昼前に出て...夕飯には帰るて言うてたけど...」
「そんなっ」
まだ昼過ぎだっ、と青褪めたリツに、どないしたん?と聞く。
「母ちゃんがっ!」
「母親が?」
「おなか痛いって倒れてっ!
店先でっ血と水がドバって!」
「腹、切ったん?」
「違う!足の間からっ血と水が止まらないんだっ」
どういうことや?と考えた侑士。
(母親...女ん人...下腹部からの出血...)
「なあ、母親、身籠っとる?」
「み...?え?」
「あれやっ!妊娠!腹に子がおる?」
「あっい、いるっ!もうすぐ生まれるって」
部屋に駆け戻り、診察室の隣にあるカルテや医学書がある部屋に駆け込んだ。
「どれやったっけ...?」
ぎっしりと本が埋まっている棚に目を走らせ、あった!と一冊の本を引っ張り出した。
『産婦人科学臨床』と書かれた本を取り出し、確か、とページをめくる。
「血、ドバッと出とる?」
「う、うん。結構...」
「色、真っ赤やった?」
「色?」
「血の色やっ」
「赤だった...」
「ドロドロしたやつやった?水っぽかったか?」
「水っぽかったと思う...」
難しい顔で本に目を走らせる侑士に、な、なあ。とリツが震えた声を出す。
「母ちゃん、死なないよね...?」
なあ?と腕を掴むリツに、侑士は何も言えなかった。
静まった部屋に、おや、と声がした。
「リツ君ではないですか」
どうしました?と紫陽宛の手紙を持ってきたのは葵。
「妊婦の母親が、血、出してるって...」
「妊婦が出血...?」
神妙そうな葵に、え?とリツの頬が引き攣った。