第10章 10.
安定剤を入れた点滴が落ちきり、共に混ぜた睡眠薬で寝ついた侑士の腕から、点滴針を抜く。
涙の跡が残る顔で、ゆっくりとした寝息を立てている侑士。
痣や傷が直った綺麗な腕。
点滴針の差口から溢れる血を脱脂綿で止める。
「癒してあげられないのかしら...」
そんな簡単なことじゃないとわかっている。
それでも、侑士の生真面目さや器用さを見るほどに、それさえなければ...と考えてしまうのは仕方のない事だった。
「う、ん...」
「侑士?」
ぼんやりと開いた目がこちらを向く。
「しょう、せんせー」
ん、と顔を歪めて口をきつく結ぶ。
「お水、飲めそう?」
空木が用意してくれたデカンタの水を注いだグラスを差し出すと、ゆっくりと上体を起こした侑士を支える。
半分ほどを飲んだグラスに、何も映さない瞳を落とす侑士。
「怖かったね」
ハッ、と顔を上げた彼に頷く。
「突然知らない人に声を掛けられたんだもの。
誰だって怖いわ。
友達のシルキッサが警戒もしたら、侑士だって、怖い人だ、と思うのも無理は無い。その上、葵さんが拳銃を向けたから、敵だ、と感じたのよね。それも、間違ってないわ。
なかなか難しいかも知れないけど、ああいう時は逃げていいの。それか、大きな声で『誰か助けて』って叫ぶのよ。
万が一、相手が怖くない、侑士の味方になってくれる人だったとしても、本当にそうなら、侑士のことを許してくれるわ、『驚かせてごめんね』って。
大丈夫。怖がることは悪いことじゃない。
あなたの『助けて』を、聞きつけてくれる人はいる」
「俺...弱虫なんかなぁ」
「そんな事ないわ」
即答した紫陽。
「葵さんに聞いた。
あなた、シルキッサを守ろうと、前に出ていたそうじゃない。シルキッサの方があなたの何倍も身体が大きいし、脚の力だってあることを知ってるはずよ?あなたは。
それでも、とっさに『友達を守らなきゃ』と思ったんでしょう?」
それは、と両手をまごつかせる侑士。
「あなたはやさしい。
やさしいこととよわいことを同一視してはダメ。
自分を守るために強くなって、侑士。
貴方は、強くなれるやさしさを持ってる。
私が保証する」
「しょう、せんせー...」
頑張りました、と微笑んで頭を撫でる紫陽の肩に、静かに頭を預けた。
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