第10章 10.
「侑士っ!」
ロビーに駆け込むと、毛布に包まって湯気の立つマグを静かに見つめている侑士の肩を抱いて背をさすってやる空木と、暖炉に火を入れている遊木がいた。
「侑士さん、紫陽様がいらっしゃいました」
「なにがあったの?」
「侵入者みたいだったぜ」
暖炉に割木を入れた遊木に、話してもいいのか?と問われた侑士はこく、と一度、頷いた。
「北の森の方から入り込んだ奴がいたんだ。
侵入者だと知らせようとしたシルキッサを見たのか、珍しいと追いかけてきた所を、畑の野菜をシルキッサにやろうと草場に行った侑士と鉢合わせたようだ。
農夫か馬飼いとでも思ったのか、声を掛けられてビビった侑士をおもしろがって『一緒に来るか』と言ったそうだ。それで、シルキッサは、侑士を連れて行かれると思ったんだろうよ。
高く鳴いた声を葵さんが聞きつけて...」
そこに、葵が入ってきた。
「畑側の山から聞こえたように感じたので、おかしいと...
駆けつけると、震えながらシルキッサにしがみつく侑士様が...」
空木と変わって隣に座った紫陽のスカートを、せんせ、と侑士の震えた指先が摘んだ。
「あいつら『人攫い』や...」
「え?」
「見えた。
腰に、下げとった...木の、板っ
あっこに...あの部屋に、おんなしマークがあった!
『黒い向日葵』っ」
「『黒い向日葵』?」
うう、と泣く侑士の体を、もう大丈夫、と抱き締める。
「せんせっ、怖いっ」
助けて、と紫陽に縋る彼に、侑士...と遊木が悲痛そうに顔を歪めた。
「うっ、うっあ、っはっかはっ」
「侑士、大丈夫。大丈夫よ。安心して。
もういない。もう、あなたは戻らない。
大丈夫。みんながいるわ。
呼吸をして、侑士っ」
「ッハッ、ハッ、ハッ」
苦しげな息を繰り返す侑士を心配そうに見る三人。
「侑士、こっちを見て。
ね?みんないる。あなたの家よ、ここは。
大丈夫。私たちがいるから、ね」
声をかけ続ける紫陽に、遊木が声を上げた。
「っそうだぞっ落ち着けっ」
「大丈夫です。紫陽様もいます」
「ゆっくり息をしましょう。
落ち着いたら、ミルクを温め直しましょうね」
紫陽や遊木、葵や空木の顔をゆっくりと見た侑士は、わずかに頷き、目を閉じ、深く、長く息を吐いた。
✜