第10章 10.
「シルキッサー」
「おしごと」の畑仕事が終わった侑士は、作業用のつなぎのまま、間引いた野菜から遊木が馬でも食べてよい、と言ったものをつめてもらった籠を片腕に抱えて厩舎へ向かった。
厩舎には誰の気配も無く、森やろか、とそちらへ向かう。
草場と森の境あたりで、森に向かい、シルキッサー!と呼びかけて、じっと耳を澄ませた。
カカッ
僅かな蹄の音が聞こえ、シルキッサー、と再び呼ぶと、ガサガサと揺れた木の間から真っ白な顔を見せた。
「そこおったんや。
遊木はんが食うてもええて。おやつやで」
えっと、と籠の野菜からどれをやろうか選んでいると、シルキッサは落ち着き無く、侑士の周りをぐるぐると回る。
「ぶどうは、昨日もおやつに出たけど甘くてうまかったで。
あと、これは丸くなっとらんけどレタスやって。葉っぱが柔らかいから、シルキッサにはおいしいって、遊木さん、言うてはったわ」
間引いたレタスを差し出すと、勢いよく齧りついた。
「遊木さんの野菜、おいしいやろ」
シャクシャクとレタスを喰むシルキッサの毛並みを撫でる。
「ぶどうも食う?
あとでブラッシングもしたるからな」
おやつをあげながら、長い鬣を手で撫でる。
手に乗せたぶどうを上手に食べるシルキッサの口に、擽ったい、と笑う侑士。
おやつをもっと、と籠を鼻で擦るシルキッサに、もう無いで、と空のそれを見せる。
「また、持ってきたるからな」
残念そうなシルキッサ。
そんな顔せんといて、とブラシで背中や脇を撫でる。
ピクッ、と耳を動かしたシルキッサ。
「シルキッサ?」
森の方にじっ、と視線を向けたシルキッサが、ぶん、と頭を振って侑士の腰をグイグイと押した。
「え?なんや?どうしたん?」
急かすように後ろから厩舎に向かって侑士の体を押すシルキッサに、どないしたんやろ、と困惑していると、ガサッ!と草木を踏む音が聞こえ、ビクッ!と侑士は固まった。
「なんや...?」
グイグイとなおも体を押すシルキッサの耳がピクリと動き、シルキッサは侑士を隠すように体を傾けた。
「クッソ!
どこ行きあがった!?」
「そう遠くには行ってねぇさっ」
ガサガサという草木が踏み倒される音とともに聞こえたのは男の声。
「誰かおるんか?」
森へと歩き出した侑士のつなぎの襟に噛みついたシルキッサは、足を踏ん張った。
