第9章 9.
「喉を通って、胃に入ったもんは『消化』される。
必要な栄養素は、血管に溶けて血になって体を巡り、不要なものは排泄される...」
まずは人間の体の基本の仕組みに知りましょう、と紫陽から学んだ内容を、再度、整理する。
「『不要』と判断されて排出されたもんやから、食うもんとちゃうんや...」
なるほど、と紫陽のわかりやすい図解を書き写してみる。
「口で咀嚼して、飲み込みやすくする。
飲み込んだんは、食道を通って胃に行く。胃で消化されて... やったな」
不要物は排出、必要な栄養素は吸収する、と図解に書き込んだ。
「やから、口から食われへんと点滴で血に直接入れるんか」
あれはそういう意味だったのか、と点と点が線で繋がった。
「侑士さーん?
いますかー?」
「空木はん?」
コンコン、とノックされたドアに、おりますー、と返事をしてドアを開ける。
「いらっしゃいましたね」
「どないしたんですか?」
「いえ?
キッチンに来られなかったので、具合でも悪いのかと」
「いや、別に...」
「ならよかった」
安心しました、と笑う空木が立つ廊下から、ふわ、と香ったもの。
「っあっ!しもたっ夕飯の手伝い...!」
「ああ、大丈夫です。
今日は農婦のカリンさんが手伝ってくださったので」
「堪忍やで、空木はん」
すんません、と頭を下げる侑士に、責めに来たのではないのです、と空木。
「お気になさらず。
キッチンに来られた紫陽さんから、たぶん部屋で勉強に没頭していると聞いていたので。
念のための確認でした。お部屋にいらっしゃるという確信はなかったので。
お部屋にいらっしゃらなかったら、大騒ぎでしたけど」
あはは、と笑う空木。
「手術をされたと聞いています。
しばらくは安静にされてください。
ここでも結構な働き者ですよ?あなた」
「せやけど、俺、世話になっとるばっかしやし...」
「いいんですよ。それで。
ほかの子たちと同じように、毎日元気にご飯を食べて、みんなと遊んで笑って、勉強して悩めばいいんです。
おとなである必要はないんですよ」
「おとな...俺、どっちなんやか?」
「どちらでも。
侑士さんが心地よいという所にいていいのです。
そろそろ夕飯ですから、食堂に来てくださいね」
待ってます、と笑って空木は手を振った。