第8章 8.
「せめてどこか読めれば...」
何か糸口がないか、と夢中になってノートに食らいついていると、なあ、と侑士。
「紫陽先生、それ、いる?」
「え?」
ほしいん?と聞かれ、答えに詰まる。
「『それあげる』て言うたら、紫陽はん、嬉しい?」
どう?と笑顔で聞く侑士。
館に来た当初は、「分からないから決めてほしい」とばかり言っていた。
少しずつ、「俺もやったがええ?」や「やってほしい?」と意見を示すようになってきたが
(この子、自分がしたいのか、自身にそれが必要か以前に、自身かどう立ち回るのが周囲にとって最善かで判断してる...)
「ほら、それが何の意味があるんか、どないな価値なんかわからへん俺が持っとったってそこに『あるだけ』になってまう。
それなら、いろいろ調べたりできるしょう先生やミナーせんせーが持っとった方が役に立つ、と思ったんやけど」
どんどん小さくなる侑士の声。
「間違っとった...?」
きっと、侑士は『以前から』頭のいい子だったのだ。
自身の能力を正しく把握した上で、周囲の状況も正しく汲み取る。
「味方」と「敵」を見極め、自身の立場で、この状況で自分がやるべきことを的確に判断していた。
記憶を失うととともに姿を隠していたその能力が、少しずつ、また蘇りつつあるのだろう。
(選択の基準としてそこを選ぶことはできても、自身の判断のみで『YES』とするか『NO』とするかまでは難しいということね)
それはきっと、その判断を『誤ってしまった時』の事への恐怖が大きいのだろう。
彼はきっと、その判断を間違えたから今、ここにいると考えている。
だから、自身で判断する事を放棄し、周囲に確認した上でかつ、判断を委ねているのだ。
『最悪の結果』を迎えてしまった時に、自身を責めないために...
「紫陽せんせー?」
心配そうにする侑士。
(今の彼には、それは難しいわね)
「ねえ侑士。
これは提案なんだけど、これらを使って、私と医学を学ばない?」
「ん?」
「きっと、この内容は以前の侑士が得た知識。
それを取り戻すために、私とこれを使って『勉強』しない?」
勉強は嫌い?と聞くと、少し考えて、ううん、と首を横に振った。
「先生は、私じゃなくて、このノートを書いた過去の侑士。
一緒に学びましょう。医学を」