第8章 8.
「黒く見える鏡なんて、珍しいわね」
「ほんまや。あ、これ、外れるんか...?」
縁の違う素材を指先で弾くようにしてみると、動く。
「外してみよ」
「いいの?」
「ええよ。どうせ使い方も分からへんのやし」
少し力を入れると、鏡部分は一回り小さく、それにピッタリと合うケースに入っていたようだった。
「外れた、けど...?」
「ねえ、その脇の突起、押すことができそうじゃない?」
突起?と薄い側面を見る。
「押してみる?」
「なんや紫陽はん、めっちゃ好奇心旺盛やん」
「気になるじゃない。
押してみましょうよ」
「...ほな、押すで?」
「うん」
興味深そうに見る紫陽。
カチ、と侑士の指に小さな感触があったが、何も起きない。
「なんもならへん」
「長く押してみたら?
3秒くらい」
「ほな、3秒」
もう一度押し込み、1、2、3とカウントする。
「なんもない...っなんかマーク出てきたで」
「なにかしら?」
「うーん、ミルクの瓶みたいやな」
「中身が少ないってことかしら?」
ほら、とそこの方に赤い印がついているそれを紫陽が指さすと、また、真っ黒な鏡に戻った。
「不思議。何か、絡繰もののようだけど、用途不明ね」
「鏡なんかなぁ?
けど、鏡面にだけ映せる鏡なんや、あるか?」
「まさに『未知』だわ」
腕を組む紫陽を見た侑士は、意外やなぁ、と思った。
「紫陽せんせーって、案外かわええねんな」
「え?」
「『おとな』やのに、子どもみたいにおもしろがるやん」
「そう?だって面白いじゃない!」
「他におもろそうなんないかなぁ?」
「本は?中、読めそう?」
「うんっと...」
鞄にあった紙のまとまりを、パララッと捲る。
「あ、待って!今、骨格みたいなものが...」
「なんやろ?」
「これ、ヒトの胸骨じゃないかしら?」
「キョーコツ?」
「胸の骨、このあたりの骨の形よ」
首下からみぞおち辺りを示す紫陽。
「なんて書いてあるか、わかる?」
紫陽の方へ紙の纏まりを向ける。
「解剖図ね。
骨と、筋肉と、内臓の配置を書いているわ」
「人間ってこんなんなん?」
「そうよ。
けど、こんなに事細かなもの、見たことない...」
まるで体の中を透視したよう、と紫陽は隅々までノートに目を走らせた。