第8章 8.
「特例はあれど、流通紙幣やコインには、その国に関する動物や偉人、遺跡や自然物が描かれることが多い」
そう言って、2種類の紙幣を手に取る。
「すぐ近くに湖がある山のようだね。
こちらは、対の鳥...雌雄だろうか?
鳥はわりと多くの神話や物語に出てくるからなぁ
どちらも裏面は人物。うーん...」
記憶をたどるが、どこにも無い顔であった。
「ここからが、私の夢戯言。
侑士は、あの子は、『この世界にはいなかった者』なのではないか、と考えるんです」
聡明な彼女からは、思いもよらない言葉だった。
「例えば、そう。我々の知らない、まだこの世に発見されていない『未知の国』に生きていて、そこで人攫いにあってここへ来た。
こうも考えられます。
転生者、とか。息絶えた者の肉体に、新たな別の人格が移り込み、今、ここにいる。
もっと飛躍させるなら、私たちの住むこの『世界』とは違う時空。言うなれば、物語の世界から『この世』にやってきた、とか。
そう考えると、ちょっと納得できる部分が多くて...」
彼女の瞳に、嘘は、無いと思った。
「おかしいですよねっ
医師である私が、こんな事を考えるなんて」
忘れてください、と紫陽は時計を見た。
「そろそろ、侑士が麻酔から覚めるはずです。
もし先生がいいなら、一緒に来ていただけますか?」
問いかける紫陽が、何かを恐れているように見え、もちろんさ、と頷く。
「紫陽くん。
侑士君がいいと言ってくれたら、この紙幣とコイン、預かってもいいかい?
もしかしたら、過去に私が訪れたことがある国に、似通ったものがあるかもしれない」
「それは、侑士のものですから、私の意志は...」
そう言って静かに首を横に振る。
「紫陽くん。もしも、侑士君が『違う世界』に生きる者だったとして、君はどうする?」
問いかけた薬袋医師にも、回答例が見つからない問いかけだった。
「そんなの、決まっています。
侑士がその世界に戻りたいと言うなら、私は医師として出来る限りを尽くす。帰りたくないと言っても、それはかわりません。
私は、医師ですから」
「君は、本当にお父さん似だ」
俺はっ医者だっ!
身分にかかわらず、『救える命はすべて救う』を信条に生きた亡友の面影を、彼女にはっきりと見た。
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