第8章 8.
術部が首裏のため、吸引器をつけた侑士を、施術台にうつ伏せに寝かせる。
機材を用意しながら伺い見た侑士は、眠そうに瞬いている。
術部が見やすいように掬い上げた髪が垂れ落ちないよう、ヘアフォームをつける。
首筋から毛流れを整えるようにして撫でながらフォームを馴染ませていると、うとうととしていた侑士の目がパタリと閉じ、穏やかな寝息となる。
「忍足 侑士。10代後半。
後頸部表皮切除手術、開始」
貴重なゴム製の手袋をはめ、医療用トレーに綺麗に並べられた機材から、切開メスを手に取る。
医師1人、患者1人の静かな手術だった。
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術跡としては小さく済んだ創部を、できるだけ細い糸で縫合し、ガーゼで保護する。
「術式終了」
吸引器を外し、手術のために額に枕を挟んでうつ伏せという楽ではない姿勢の侑士の頭部を支え、楽なように寝かせると、上裸状態の身体に毛布をかける。
「手術痕は残るけれど、これで『あなた』に戻ったわ」
穏やかに眠っている侑士。
手袋を外した素手で、出会った当初からは見違えるほどに治癒し、いくらかふっくらとした頬を撫でる。
これまでのここにいた同じ年代ならば、とっくに職を持ち、食い扶持を得て、独り立ちしている年頃だ。
見た目よりもどこか幼く、頼りなさそうに思うのは、記憶を無くしているせいか。
侑士の寝顔を眺め、考える。
独り立ちさせるには、まだあまりに無知で幼い。
それが、何かしらの疾患や障害によるものならばこの世界でも理解がそれなりにはあるが、侑士にそれらの素質は無い。
むしろ頭脳は明晰な方で、1教えれば10とは言わずも5は理解する。それだって、記憶を喪失するだけの脳への影響があったからで、それを無視すればそれ以上だろう。
今は、子どもたちと同じ「養護される」側であることが多い侑士に、紫陽は悩んでいた。
「おとな」側に迎え入れてもいいかと思える面もあれば、まだまだ「子ども」であるべきだと思う面もある。
「どうしたらいいのかしら」
侑士の『立ち位置』に悩む紫陽。
機材の洗浄に手術室を出ると、紫陽さん、と館の女給仕に呼び止められた。
「薬袋様がお見えになっておられます」
「わかったわ。ありがとう」
相談してみようかしら、と消毒液に機材を浸しながら、深く、ため息をついた。
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