第7章 7.
「髪を結った時に、気づいてあげるべきだったわ」
手にした手鏡で、背後の鏡を映す。
髪を結われた首筋の後ろを手鏡で見た侑士。
「なんや、この数字...?」
いち、ご、さん、に...と読み上げる侑士が手に持つ鏡を、紫陽は両手で押し下げる。
「忘れなさい。
これは、あなたが『あなたでは無くされた』証だから」
「俺やなく、された...?」
うん?と首を傾げる侑士に微笑みかける。
「これはね、過去にあなたは...家族...違うわ。居場所を、なくしてしまった、という証なの。
でも、今、あなたはあなただけの居場所があるでしょう」
「?せやね。俺の部屋、あるわ」
少し意味合いが違ったが、それでいい、と頷いた。
「その事を、人によっては、とても...怖がるの。
自分の居場所が無くなると言うこと...その経験をした証に、なって、しまうの。その数字は」
「居場所を、無くした...」
噛み締めるように言って俯いた侑士。
「侑士」
そっと肩に触れた紫陽を手を握った侑士は、うん、うん、と何度も頷いた。
「あなたには、ここに居場所があるわ。
その証は、もう必要無い。
だから、消してしまいましょう。そして、忘れて」
「せやけど、こんなん、消せるん?」
そっと指先で触れると、かさぶたのような、膨れた皮膚の感触がした。
「手術で消しましょう。
術痕は残ってしまうけど、その数字はすべて消せるわ」
「紫陽先生が、してくれるん?」
「ええ。
私が責任を持って施術する」
「なら、消すわ」
パッ、と明るい顔を上げた侑士に瞬く。
「怖くは、無いの?」
「怖いで。
しゅじゅつ?いうん、したことないねんもん」
記憶の限りは、と侑士はなおも笑った。
「せやけど、紫陽先生がやるんやったら、なんも怖がることないわっ
やって、紫陽先生は、俺の...ううん、ここのみんなの『せんせい』やから。
紫陽先生がやることに、『間違い』は無いで」
そうやろ?と問われ、頷くことも否定することもできず、ただ、目の前の侑士を抱き締めた。
「だいじょーぶやで、紫陽先生。
俺、なんも怖ないよ」
そう言って体を預けた侑士を、紫陽は何時までも抱きしめていた。
✜