第7章 7.
来て、と市場すべてが見渡せる、少し高台まで侑士の手を引く。
そこには噴水があり、水盤の縁に腰掛ける。
「本屋さんは?」
「図書室の本、まだあるし...」
「紙や万年筆のインキは?」
「紙は、この前、行商はんが来はった時にもろたで。
インキも、まだ充分ある」
「服や靴は?」
「足りとるよ」
ガララッ!と通りを駆けている荷馬車を見送る侑士。
「だったら、少し、私の買い物に付き合ってくれる?」
「紫陽先生、なん買うん?」
「着いて来てっ」
「えっ、わっ!」
腕を引かれた侑士は、小走りの紫陽を追いかけた。
人混みの中を上手に歩く紫陽は、ここにしましょう、と一つの店ののれんを、ごめんくださいな、と潜った。
「いらっしゃい」
「こんにちは。
彼に眼鏡を作りたいんですが」
「ああ、それならここにかけて」
手元にあったものを片付けた店主は、カウンターの前の木椅子を指さした。
紫陽に手を引かれるまま木椅子に座った侑士の隣に立った店主は、さてさて、と用意を始めた。
「ガラス?」
「水晶よ」
カウンターに出された透明な玉。
「きれいや」
じいっ、とそれに見入る侑士。
「さてさて、まずは視力を測りましょうかね。
さ、あちらを向いて」
店主の指先へと体を向ける。
「片手で、どちらかの目を隠して。
どちらでもいいよ」
言われるがまま、左手で左目を覆う。
よいせ、と少し先の壁まで向かった店主がランプをつけた。
「ここには何と書いてあるか、読めるかい?」
ここ、と細い棒で差された所を見る。
「ええっと...あ、あれや。
えっと...あっピー、『Peter』の『P』」
「では、次」
「『L』。『Love』の『L』」
「これは?」
「『D』。『Doctor』の『D』や」
「これも見える?」
「んっと...『C』や。『Cat』の『C』」
「逆に目を隠してごらん。
これはわかるかい?」
「『F』。『Fox』の『F』」
「これとこれは?」
「『Tare』の『T』と『Zebra』の『Z』」
ふむ、と店主は紫陽の方を向いた。
「視力は、悪くないようだね」
「え?」
「一番小さなところまで、きちんと見えているよ」
「あなた、目が悪いわけじゃないの?」
キョトン、と見上げてくる侑士に、紫陽は首を傾げた。