第6章 6.
「ギンゾウさんとミツコさんは、『花の場』で野菜や小麦を作っている農家さんよ。
一人息子のソウタさんが、三ヶ月前から、何の前触れもなく行方不明になってるの...」
ちょうど、侑士がここに来たころだった。
「年の近い男性がいるって聞いて、息子さんじゃないかって...」
二人に出していた茶器を片付けながら、紫陽は少し、ため息をついた。
「あなたがここに来る数日前から、ソウタさん、『市場に本を買いに行く』と言って出かけたっきり、帰ってきていないそうなの。
先日、森の中で彼かいつも市場に行く時に使っていた鞄と靴が見つかって...
あなたと歳が近いから、お二人は、もしかしたらあなたがソウタさんなのかもしれないって、訪ねてきたのよ」
「そうやったんや...」
「ごめんなさいね。
嫌な思い、したでしょう」
腹の立つ老人だったが、その話を聞くと、少し、感情がおさまった。
「しゃあないやろ。
探しとる息子がおるかもて期待してきたのに、全然ちゃう人間やったら、落胆するし、腹も立つわ」
「あなたは、本当にやさしいのね」
なあ、と侑士は伺うように紫陽を見た。
「人がおらんくなるって、よぉあることなん?」
「んー、無い、とは言えないわね」
「それって、やっぱ...」
少し、息を震わせた侑士の隣に座り、手を取る紫陽。
「いろんなことが、考えられるわ。
薬袋先生のように、薬や貴金属、絹なんかの貴重品を持つ人が、それを狙う盗賊たちに襲われて、殺されてしまったり、猟師がクマに襲われて、森の深くに連れ去られたり。
葵さんは、実はもとは行商人だったのよ。
ここから北にある森の中で迷ってしまって、ここにたどり着いてきたの。ちょうど森の道が閉鎖される時期で、帰ることができなくなって、ここに。
見知らぬ土地ででも、生きていると分かれば安心もできるでしょうけど、それすらも不明となると...」
「家族は、じっとしてられへんよなぁ」
ギュッ、と手を握った侑士。
「あなたにも、いるわ。
きっとまた、どこかで会えると、そう信じて、あなたをのことを探している」
握りあった手を撫でる紫陽に、あなたを探している人がいる、と言われても、それがなんなのか、よくはわからなかった。
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