第1章 1.
ケチャップマダムがこちらを見ていたが、ついさっき支払われた「報酬」を突き返すように、席までわざわざやってきた金銭番に渡す。
さて、このあとどうしたらいいのか。
「診療代」と書かれた領収書をバッグにしまうと、黒服がやってきて、こちらへ、と別室に通された。
小さな部屋にはガラス張りの一面があり、その向こうでは15324192の彼が枠も無いマットレスに、下着一枚のまま、手枷と足掛けをつけられて寝転がっていた。
「ねえ」
書類を用意している黒服が、何か?と聞く。
「あの子に合う服を用意して。
一組でいいわ。
あんな格好で持ち帰れない」
「どのようなものにいたしましょうか」
「綿のシャツと動きやすいゴムウエストのボトム。
下着は、綿。靴下と、歩きやすい靴も。
もちろんサイズを合わせて
それと、シャワーも浴びさせて」
すぐに、と黒服は携帯で連絡を取った。
向こうからこちらは見えているのだろうか?
「枷の鍵は?」
「こちらに」
差し出された鍵を受け取ると、ガラス張りの壁の脇の扉に向かった。
「あのっ」
「私の『所有物』よ。
何をしようと自由、でしょう?」
少し戸惑った様子の黒服は、ここから先の責任は取れませんので、と扉の鍵を開けた。
ギイ、と重く開いた扉に、ベッドの上でモゾ、と身じろいで起こした身体で、ずり、と尻を這うようにして壁際にぺたりと体を預ける。
「怖いわよね」
「ぁ、」
掠れた震え声。
「ケガを、見せてくれる?
私、医者なの」
差し出された両手は、震えている。
医者に信用があるらしく、おずおずと握りしめていた指を開いた。
小さな切傷などはあるが、指や腕に骨折は見られない。
気になったのは、右手の指の付け根にある胼胝。
左右の手を比べても、右手が著しい。
「手が冷えてたら、ごめんなさいね」
そっと両手を取り、手首や肘、肩の関節の動きを見る。
ささくれて乾燥した手に、ハンドクリームでケアしている手を重ねると、ギュッと握った。
「ぁ、あ、すっも、申し訳ありませんっ」
ぱっと引いた手を膝の上で握りしめた。
カタ、カタカタ
震えているのは手だけじゃない。
歯を鳴らす肩が、きつく上がる。
「いいの。もう一度握ってくれる?」
右手は、彼の右手と。
左手は、彼の左手と握手をするように握った。