第1章 1.
「15万いただきました。他には?」
ご指名のマダムは、連れらしき隣のマダムとヒソヒソと何か話して笑った。
「商品」の様子が映されたステージのモニターでカウントダウンが始まる。
20 19
「16万」
18 17
「16万っ!16万が出ましたっ」
値段をつり上げたのは、すぐ隣にいた女だった。
16 15
「18万3千っ!」
札を上げたのは、ステージ最前列の、ご指名マダムの隣にいたまた別のマダム。
脂肪をこれでもかと蓄えた見るに堪えない身体に、それはハンカチか?と聞きたくなるような赤いキャミソールドレスを着て、リングの宝石が埋もれてしまいそうなムチムチとした手を掲げ、ケチャップのような赤い口紅でニィと笑った。
モニターで何を見るでもなかった「商品」の目が動いた。
どうやら、「商品」は、自分の「かいぬし」に気づいたらしい。
ぼんやりと無表情だった「商品」は、長い前髪を払うように首を回すと、顔を上げて、笑った。
嘲笑ではない。
アザと怪我と血の跡がついた、綺麗な顔で、笑ったのだ。
にっこりと。
「18万3せ...いや、19万っ19万っ!19万500円っ」
値段は釣り上がり、成人近い男にしては高額を叩き出す。
「19万1,000円はいませんかっ!?」
ここまで来たら20万まで跳ね上げたいのが本音だろう。
ステージ脇からヒョコリ、と顔を出したのは小太りな男。
すぐに引っ込んだ。
多分、15324192を持ち込んだのは彼だろう。
人さらいの取り分は、保管期間にもよるが落札額の1〜2割。
どういう経路で「彼」を「仕入れた」のかに興味は無いが、既に元は取れる額になっているらしい。
見たこともない、というような顔で、食い入るように跳ね上がっていくプライスを見ている。
「19万5,000円!19万5,000円んっ!」
興奮状態の司会者が、早くプライスハンマーを叩きたいと飛び跳ねている。
「よろしいですかっ!?
よろしいですねっ!?」
振り上がったハンマープライスに、扇子代わりにしていた97番の札を高く掲げた。
カウントは、あと8秒。
「30」
「さっ」
しん、と静まりかえる会場。
「あ、やっぱりに」
20と言いかけた言葉は、ビー!というけたたましいタイムアップのブザーにかき消され、まあいっか、とソファに深く座った。