第6章 6.
目の前には、真っ白な長い麺が入った金色っぽいスープ。
ホカホカと湯気が立っている器からは、いい匂いがする。
箸で食べるのが本格のようです、と差し出した空木から「おしごと」で作った、先が尖った細い棒を2本、受け取る。
2本揃えてフォークのように持ってみた。
(なんか、ちゃうな)
しばらく箸を眺め、考え込む。
(なんか、こう...)
なんとなくこうかな、と指で二本を揃えて持つ。
(刺すんやなくて、挟むんでもなくて...)
そっ、と先から2〜3cmを器に差し込み、麺を引っ掛けてすくう。
いや、と一度うどんを戻すと、がこ、と椅子を前に引く。
拳一つほど空けて椅子を寄せると、器を引き寄せた。
(そんで、)
箸を持ち直し、ああでもないこうでもないと持ち方を思考錯誤する。
「あ、」
2本の間に中指を挟むようにして持つと、なんとなくしっくりして、今度は、うどんをつまみ上げる。
ゆっくり持ち上げた麺は、ホカホカの湯気を放っている。
「ふーっ、ふーっ」
熱々のスープのように、吐息で冷まし、1本、口に運ぶ。
口から垂れるように長いそれを、チュル、と吸い上げた。
何か言いかけた空木を、紫陽が止めた。
最後まで啜り上げ、ゆっくりと咀嚼する。
一瞬止まった侑士の口。
箸を置くと、器を両手で持ち上げ、縁に口をつけた。
「侑士。待って...」
火傷するわ、と言いかけた紫陽。
こく、と上下した侑士の喉仏。
こく、ごく、と何度か動く。
お椀を下げた侑士。
テーブルに置かれたそれに、ポタ、と雫が落ちた。
「おいしい?」
顔を上げると、笑顔で、どう?と聞く紫陽。
めっちゃうまい
そう言いたかった言葉は、鼻を啜り上げる音になった。
目の前で歪んでいく紫陽の笑顔に、シャツの裾を掴み上げて顔を拭いた。
「こら。お洋服で拭きませんっ」
しかたないわねぇ、とハンカチをポケットから出して、隣にしゃがむ。
「せっかくのおうどん、しょっぱくなっちゃうわ」
ほらもう、ゆうちゃん!
ソースついとる
頭のなかに声がした。
前の声よりも、柔らかいような優しい声。
「ほら、侑士。顔を上げて」
侑士の輪郭や頬に伝う涙を拭う紫陽。
「泣き虫ねぇ」
昔、散々言われた言葉に、涙がまた溢れた。
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