第5章 5.
鍋の湯の中で踊るようにくるくると渦巻く麺を、子どもたちは興味深そうに見ている。
「なにか思い出しの?」
「...なんも」
ゆるゆると首を横に振った侑士。
「なんか見えたとか、浮かんだとかは無かってん。
せやけど、懐かしい気がした」
「侑士は、海の近くで育ったのかしら?」
「海...
水が、ぶわぁって広がっとるところよな?」
本の挿絵で見た「海」を思い出してみるが、特に何も感じなかった。
「やっぱり『うどん』に何かあるのかしら?」
「わからへん。
作ってみたけど、特になんも...」
「食べてみたら、また何かわかるかもしれないわ」
楽しみね、と微笑む紫陽に、うん、と俯いた侑士の顔はあまり明るくなかった。
「侑士?」
「ん?」
目を見つめ、無言で問いかける。
「いや、なんや...
食事をイチから作るて、むっちゃ大変なんやなって。
空木はん、ほんまにすごいわ。
もうちょっとなんや手伝えること、増やさんとな」
「今だって、充分できてるわ」
「そう、かなぁ?」
「なにか、少しでも昔を思い出せたらいいわね」
「...うん。
あ、浮いてきた」
渦巻いていた麺が、水面の方へと浮き上がってきた鍋を覗き込む侑士。
「火傷するわ」
近すぎよ、とその肩を掴んで体を引く紫陽は、うん、と頷いた。
「いいんじゃないかしら」
空木さん、と子どもたちに食材を教えていた彼を呼ぶ。
「さて、ではまず水で締めましょう」
「しめる?」
何が開いているというのだ?と言いたげな侑士。
「『引き締める』という意味です。
温まると緩む、冷やすと締まる。
魚の筋肉と同じです。
生の魚の身は歯ごたえがありますが、茹でたり焼いたりすると、ふんわりと柔らかくなるでしょう?
それと逆のことをするんです」
「固くしてしまうん?」
「いえ、固くすると言うよりは、引き締めて噛み応えを出すという感じです」
大きなボウルにたっぷりと水を溜める。
「ここにあげた麺を入れてください。
火傷しないように」
混ぜ棒で引っ掛けた麺を慎重に運ぶ。
「ゆうしくん、落としちゃダメだよっ」
「ちょっ!そこおらんとって!
動かれへんっ」
足元の子どもたちに熱湯や茹でたての麺が溢れないようにして運ぶ。