第5章 5.
ザアザアという音が外からしている。
侑士は、紫陽や館で働く『おとな』たちと同じ部屋の並びに1室もらった、ベッドとクローゼット、椅子と机がある東向きの部屋で、万年筆とインク瓶と紙、図書室から借りた本が置かれた机に向かっていた。
「『そして、しあわせにくらしました』。
『しあわせ』ってなんや?」
わからない言葉、と本を書き写した紙の『しあわせ』に、下線を引いた。
「『くらす』は、えっと...生きていく、食べたり、動いたりする...日々、のことや」
『くらす』の下に、『たべたりうごいたりしていきること、まいにちやること」と歪ながらも読める字で書く。
コンコン、と扉を叩く音がした背後を振り返る。
(ええーっと)
どうしたらええんやっけ、と万年筆に蓋をする。
「「ゆーうーしーくーん!」」
子どもの声に、は、はぁいー?と答え、椅子を引く。
「あ、いた」
「どうしたん?」
開いた扉の前にいたのは、仲良く手を繋ぐ、一緒にここで暮らすつきとほし。
侑士と同じ男の子で、顔がよく似ている2人の前にしゃがみ込む。
自分よりも年下で小さな人と話す時は
こうして、目の位置を同じくらいにして
話してあげて。
見上げることって、とても疲れるし、
時にはその人が怖い人に見えてしまうから
紫陽に学んだ通り、腹あたりに頭がある2人の前に、折った膝に手を乗せて聞いた。
「「紫陽さんが、『今日はお外のことができないから、みんなでお部屋でやることを探しましょう』って。
食堂に集まれーって」」
一言一句違わず、全く同じ速さで話す2人。
「「一緒にいーこーうー?」」
「えーえーよー」
わーい!と笑った2人に、待っとってな、と机の筆記用具や本を片付け、部屋を出た。
タタッ、と短く駆けた2人の間に挟まれ、両手を小さい温かい手につかまれた。
「侑士君、てて、まっくろ!」
「ほんとだ!まっくろ!」
万年筆のインクが付いてしまった手に、食堂に行く前に水場に向かう。
「「あわあわっ!あわあわっ!!」」
ちょうだい、ちょうだいっ!と侑士の手からせっけんの泡を取り合った2人と手をつないで、人が集まっている食堂へと入った。