第5章 5.
「ちゃんと手入れをすれば、ずっと、『万年』使える『筆』だから『万年筆』」
「まんねんしつ」
「『万』というのは、『単位』。
数、量の大きさを示す言葉。
料理をする時、空木さんに『卵を一つ』とか『塩を一匙』とか言われるでしょう」
「うん」
「つ、は個と同じ。1から9の数字につけて使う」
「ひとつ、ふたつ...さんつ」
惜しい、と、紫陽は棚から積み木を取り出した。
「これが『一つ』もしくは『1個』」
正方形の積み木を机に置く。
「『一つ』増えて『二つ』もしくは『2個』」
「『2個』...にこ?」
小首を傾げて口角を上げて見せた侑士。
「ふふ。
そうね、笑顔の『ニコッ』と同じ音ね。
『同音異義語』と言って、同じ音で違う意味を持つ言葉よ
例えば...『ハナ』」
紫陽は、指先で自身の鼻先に触れた。
「それと、『はな』」
同じ指で、机の端に置かれた花瓶のガーベラを指さした。
「『はな』...あっ、おんなしやんな」
「そう。同じ口の動きをするの。
それが、どちらを指す言葉なのかは、会話の前後や字の形からどちらなのか考えるのよ。
そうね...『はなはきれいだ』。
どっちだと思う?」
「『はなはきれいだ』...」
一本のガーベラを見て、うーん、と悩む侑士。
「『きれい』『きれいだ』」
チラ、とこちらを見た。
「先生、前に俺のこと『きちんとすればきれい』て言うたよな」
「え?」
「やから...
『はなはきれいだ』の『はな』は、こっちの『はな』や」
自身の鼻先を指差し、あっとる?と笑顔の侑士。
きちんとすれば、あなたは綺麗よ
それは、侑士を風呂に入れた時に言った言葉。
想定外だった...と苦笑する紫陽。
「惜しい。
今の『はな』は、こっちの『花』」
「間違えてしもた」
「いいのよ。間違えて。
それが『学ぶ』と言うことだから」
花は綺麗だ、とガーベラを指差しながら言う侑士。
「綺麗な、ひとつ、の花」
少しずつ、正確に言葉を習得している侑士。
「万年筆。
書く、ができる...1個」
これも1個、とガーベラを指さし、うん、と笑顔で頷いた。
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