第4章 4.
火が入ったオーブンに、生地を敷いた中に野菜入りの卵液を流し込んだ容器を入れる。
「『代償にここを手伝いなさい』と言われ、先代に料理を教わり、紫陽様は風呂や寝床、着替えを与えてくださった。
野菜の育て方や肉の捌き方を教わり、皆さんに料理を作るようになった。シェフにしごかれ、逃げだそうとした時もありましたよ。
そうして10年が経った頃、この帽子を先代がくださった。
『明日から、お前がここの人たちの食事を担うんだ』と。
以来、紫陽様のお食事をはじめ、使用人様方、お子様方のお食事、菓子、お茶。
時には、ここで働かれている方の家族のお弁当も作らせていただいてます」
20分ほど焼きますよ、とオーブンの扉を閉めた。
「『キッシュ』という、西国の卵料理です。
侑士さんの初めての料理。みんなで、切り分けていただきましょう」
「...紫陽様の口に、合うやろか...」
「大丈夫!
紫陽様は案外、雑食です!
なんでも美味しく食べてくださいますよっ」
慰められているのか勇気づけられているのかよくわからないな、と侑士は曖昧に笑った。
「うんうん。
侑士さん、たくさん笑われてください」
「え?」
「その方が、紫陽様は喜ばれます。
私たちも、うれしい」
「うれ、しい...」
「共に働く『仲間』であり、生活する『家族』ですから。
笑われたり喜んでいらっしゃると嬉しい。
悲しんだり怒ってらっしゃると心配します」
そういうものです、とシェフは言う。
洗い物をしながら、彼は色々と教えてくれた。
卵にも、鶏が産んだもの、家鴨が産んだもの、鵞鳥が産んだものとあり、それぞれに特徴があるという。
疲れた時には豚の肉が回復になるという。
体を作るには鶏の肉がよく、力をつけるには牛の肉だという。
野菜には「季節」があり、栄養価が高く、一番おいしくなる時期を「旬」というらしい。
ここでは、年間通して食料を確保すべく、人工的に温度などを管理をして栽培しているものもあるが、基本的に自然に任せた栽培をしているらしい。
これから、「春」という季節になり、野菜も果物も、たくさん採れると言う。
「侑士さんの『好物』がたくさん見つかるといいですね」
「こう、ぶつ?」
「好きなもの、ですよ」
好き...と、呟いて首を傾げた。