第4章 4.
「侑士さん、力がついてきましたね」
調理場。
ふきんを敷いた作業台の上でボウルを傾けながらキッシュ用の卵液をかき混ぜていた侑士は、それを見た。
「前は、その空のボウルを運ぶのも一苦労だったでしょう」
キッシュに入れる食材を切りながら、成長されましたね、と微笑む料理長。
確かに、最近あまり疲労を感じなくなった、と自身の両手を見る。
「最近、紫陽様とされているヨガが合っているのでしょう」
ここは年中、活動しやすい気候だという。
「まずは体をつくらなきゃ」と紫陽と同じ食事がとれるようになって少しした頃、連れられたのは屋敷の中庭。
丸い屋根のある所にふわふわしたものを敷いて、その上で腕を上げたり、背を伸ばしたりするポーズを真似する。
「それが『ヨガ』です」
「『ヨガ』...」
「もとは、僧侶が行う瞑想法だとか。
自身の考えや、仏の教えを得る修行法から考えられた体操だとかで、ええっと、肉体の精神の、繋がり?を感じるため、とか言ってあったような...
すみません、私にはちょっと難しくて...」
詳しくは紫陽様に聞いてみてください、と恥ずかしそうに言った。
「無学で忝ない。
私はこのとおり、料理しかできないんです。
これだって、ここで紫陽様がさまざまなことを教えてくださる中で、『とても美味しい』と紫陽様が褒めてくださったから、続けられているようなもの...
先代の料理長が倒れた時、いつもここを手伝っていたあなたならできる、と紫陽様が言ってくださり、毎日、『今日も美味しかった』と言ってくださるから続けられる」
「あの、もしかして...」
はい、と卵液のボウルを侑士から取り上げると、野菜たちを入れた。
「実は私、ちょうど侑士さんくらいの年の頃に、ここに泥棒に入ったんです」
「えっ」
瞬いた侑士の目に、驚きました?と、耐熱皿に卵液を流し入れる。
「食べるのに困って、ここに侵入したんです。
夢中になって食材を貪っていたら、紫陽様に見つかりましてね。
その時私、厚かましくも野菜に塩や油をかけて食べていたんです。
それを見た紫陽様が『味がわかるの?』と。
トマトには塩、きゅうりには溶き卵と植物油を混ぜたものをつけて食べていた私を雇ってくださったんです」