第4章 4.
ノックの音に、どうぞ、とカルテを閉じる。
「しょうせんせー、」
「侑士、どうしたの?」
診察室にヒョコ、と顔を出した侑士。
「えーっと、あんな。
葵はんが、お客はんやからしょうせんせー、呼んできてほして」
「あら、誰かしら」
誰か約束していただろうか?と席を立つ。
「なんや、客人みたいやったで?
でっかい荷物、ぎょうさん抱えて来とった」
おっちゃんやったで、とだいぶ流暢に話せるようになった侑士と診察室を出る。
どこか、ソワソワしている侑士。
人と会うことにまだ恐怖を抱きやすい彼は、特に、男性には拒否反応が出る時がある。
後ろをついてくる侑士と客間に向かう。
「お久しぶりです。薬袋先生」
「やあ、紫陽君。おや?」
こんにちは、と穏やかに声を掛けられた侑士は、視線を彷徨わせて紫陽の後ろに隠れた。
「おやおや。
ずいぶん恥ずかしがり屋さんだ」
「侑士です。
まだここに来たばかりで...」
「そうかい、そうかい。
それは、驚かせてしまったかなぁ」
よいせ、と彼はテーブルに大きな木箱を抱え上げた。
「侑士、葵がお茶を支度していると思うから、給湯室へ行って手伝ってきて。
それが終わったら、葵と一緒におやつの準備をするの。
今日はショートブレッドよ。いちごジャムとマーマレード、この前一緒に漬けたりんごのコンフィチュールを添えてね
用意ができたら、畑のみんなと食べなさい」
わかった?と聞くと、はいっ!と頷いた。
「紅茶を忘れずにね」
「...ココアは、あかんですか?」
「もちろんいいわよ」
「やった」
小さく跳ねると、いちごジャム、マーマレード、りんごのコンフィ、と言いながら部屋を出て行った。
「新しい子かい?」
「ええ」
「珍しいね」
ここで養護されているにしては齢が行き過ぎではないか?と言いたいらしい。
実は、と紫陽は薬袋に耳打ちをした。
「『国家支援就職』に、同意無く参加させられたようです」
「っそれは」
なんてことだ、と薬袋は頭を抱えた。
「また、ショックで記憶を喪失しています。
どんな経緯なのかもさっぱりで、なんというか、浮世離れした子だったので救助対象に...」
「まったく、どうなっているんだ」
窓の下の庭から、子どもたちの声がした。
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