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意志あるところに道は開ける

第3章 3.



 ✜

ペタ、と頬に貼り付けられたものの冷たさに、ん、と身じろぐ。

「ごめんなさいね」

そっとそこを撫で、眉尻を下げる彼女に、ゆるゆると首を横に振った。

「嘔吐したものや排泄したものは、もとは食べたものだけど、それ自体は食べ物ではないの。わかる?」
「...はい」
「あなたは、生きるために強いられていたのね。
 でも、もう、必要ないのよ。
 食べるべきものを食べて、栄養を取って、健康な排泄をする。
 『片付ける』というのは、あの場合は『流す』か『捨てる』。
 方法がわからないなら、私を呼んで。
 教えるから」

教える?と正面の彼女を見上げる。

「『どうしたらいいか』と、聞いて。
 答えるから。約束よ」

そっと手を取られ、小指同士を絡める。

こんなことを聞いていいのか、と戸惑いながら、あの、と彼女を見る。

「なに?」
嬉しそうに首を傾げた顔から視線をそらす。

「その...なんと、お呼びすれば...」
「...あ」

少しの沈黙に、チラ、と彼女を見上げる。

「やだっ、私ったら!」

いやねえ、と照れたように笑った顔に、俯く。

「名前を言ってなかったわね。
 私は、しょう」

部屋のベッドから降りると、机から何か持ってきた。

細長いもので、白いものになにか書く。

 紫陽

「これで、しょうと読むの」
「しょう、」
そう、と再び何か書く。

 一 紫陽

「にのまえ しょう。
 私の名前」
「にのまえ...しょう...」

紙に書かれた文字を、そっと指でなぞる。

「ちょっと違うわ。
 この書き方は、こう」

手を取り、一緒に文字をなぞる。


「はい」
彼女は、彼女の名前の隣に、何か書き足した。


 侑士

「あなたの名前よ」
「俺の、名前?」

貸して、と手を取られ、その文字を一緒になぞる。

「『侑士-ゆうし-』...」
「...そうね。たぶん、『ゆうし』だわ」

いつも呼ばれていた記憶が、少し、残っているのかもしれない。

「『侑』は優しいという意味。人を思いやる気持ち。
 『士』は、強く戦う者。力のある者。
 あなたは『侑士-ゆうし-』」

じっ、と髪を見つめる髪を撫でた。

「ゆうちゃん」

そう呼ぶと、彼は跳ね上げた顔を赤くした。


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