第21章 21.
最近、肌のかゆみや乾燥を訴える患者が増えたので、アロエの保湿剤のストックを作り、日没1時間前の鐘に、診療所に施錠をする。
定期的に受診する患者のカルテを整理し、厩舎から鞍を持ち出した。
厩舎には誰もおらず、裏へと回ると、シルキッサー、と彼女を呼ぶ。
すぐに顔を出した彼女に、持ち出した鞍を見せる。
「また、乗せてくれへん?」
穏やかに背を下げたシルキッサ。
鞍のベルトの締まりを確認して鐙に脚をかけると、よっ、と身を上げて背中に乗ると、シルキッサはゆっくりと体を持ち上げた。
「やっぱ、高いなぁ」
はじめは紫陽と共に、次は隣についてもらってシルキッサに乗っていた侑士も、今では一人で鞍掛からこなす。
「行こか」
侑士が手綱を両手で持つと、シルキッサはゆっくりと歩き出す。
「なあ、シルキッサ。
ちと、走ってくれるか?」
手綱を手にかけてしっかり握った侑士に、少しずつ歩調を速めたシルキッサの蹄が音を立てる。
トカカッ、トカカッと轍と小石がある道に、馬が駆けた跡が残っていく。
館と診療所から離れ、町の入り口の方へと走っていく。
少し先に、人影を見た。
手綱を引き、シルキッサの脚を緩める。
「侑士っ」
日傘を差してこちらに向かっていたのは、ひのはだった。
「ごきげんよう」
「どうも」
「あなたの馬?」
笑顔でシルキッサに手を伸ばしたひのはに、やめとき、と手綱を引いてシルキッサの向きを変える。
「気難しい子やねん。
噛まれんで」
「そうなの。どこかへお出かけ?」
「いや、暇やったさかい...」
笑顔で日傘を少し上げたひのはが持つものに、シルキッサから降りて、それは?と問う。
「ラケットよ。
友人とテニスをした帰りなの」
「てに、す?」
ご存知ない?とひのはは持っていたものを袋から出した。
「これがラケット。
コートと呼ばれる中で、一対一もしくは二対二でネットを挟んで小さなボールを打ち合うの」
「スポーツか?」
「そうよ」
木でできているらしいそれを差し出され、握ってみる。
「こう握って、そう。
ボールが来たら、こう振るの」
ボール、ということは球技か、と、道端でラケットを振る。
侑士!
任しとけっ
ラケットに、何か当たった音がした気がした。
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