第21章 21.
楽しそうな声に足を止めた侑士。
傍らのシルキッサの表情が、どこか心配そうだった。
落ち着きなく蹄を鳴らす彼女の鬣を撫でる。
よしよし、と鼻先も指で掻くように撫で、行こ、と厩舎の入口には向かわず、森の方へ向かう。
横を歩きながら、時折、手に鼻先を擦り付けてくるシルキッサ。
「センセーにも友達はおるわ」
リナさんやってあの人やって、と独り言のように言いながら、どこかいつもと調子の違う自身の鳩尾を撫でる侑士。
気持ち悪い、と、立ち止まり、倒木に座り込んだ。
しばらく蹲ると、耳元でシルキッサの鼻息がする。
「へーきや、平気...」
落ち着け、と目を閉じて、細く、息を吐く。
ス、と開いた侑士の瞳に、シルキッサが数歩、後ずさった。
「行こか」
顔を上げた侑士をじっと見つめたシルキッサは、恐る恐るといった足取りで、手綱を引かれた。
「おっ噂をすれば」
シルキッサと厩舎に入ると、どうも、と笑顔の嵐馬に、会釈した侑士。
シューッ、と蒸気のような声を上げたシルキッサの頬を、どないしたん、と撫でる。
睨むように嵐馬を見て、バタバタと尻尾を振っている。
「シルキッサ、嵐馬よ。忘れたの?」
紫陽の言葉に、シルキッサは侑士にピタリと体をつけ、嵐馬に向けて歯を剥き出しにした。
「どうしちゃったの、シルキッサ...」
彼とは何度も会っているはずのシルキッサに、2人に背向けるように向き合う侑士。
「ええ子。ええ子やから...」
厩舎にあったブラシで撫でてやりながら、よしよし、と彼女を宥める。
侑士に体を寄せながらじっ、と大きな目で見てくるシルキッサを、嵐馬は見つめた。
「...あー、ね。お前はそいつを認めたい訳ね」
「え?」
何か合点がいった様子の嵐馬と、なに?と首を傾げる紫陽。
「お前さんは、昔っから俺のことが気に入らなかったもんな」
肩を竦めた嵐馬が侑士を見た。
「俺は、嵐馬。酪農家だ。
馬はいねぇが、牛を飼ってる。
紫陽とは、ただの幼馴染さ。
ちなみに嫁と子どもがいる。上から男、男、女、男、女、女の6人。
よろしくな、センセイ」
「...侑士です。
よろしゅう」
ん、と嵐馬が差し出した手と握手した侑士を見て、シルキッサは侑士に寄せていた体を少しだけ後ろへと下げた。