第21章 21.
隙間風が入ったか、少し埃っぽいはずの『秘密基地』こと旧厩舎はどこかさっぱりとしていて、修繕箇所が無いか見ながら、奥に進む。
乾草を固めたロールベールと、それを発酵させるために密閉したサイレージは、近隣で天候不良等により飼料不足になった時のために、有志の牧場主らが毎年採れるものの一部を出し合い、有事に備えて蓄えているもの。
以前はそれにも参加していたが、家畜がいなくなったため、牧草類の栽培をやめた代わりに、それの保管場所の提供と管理を紫陽が担っていた。
手頃な高さのサイレージに腰掛ける。
「小さい頃は、よくここで遊んだわね」
近所の子どもたちと、積み上がる飼料や牧草をよじ登ったり、かくれんぼをしたりした。
また、牧草を刈り取る時期になったら掃除をしなければ、と考える。
ガコガコと荷車の音がした。
それを引きながら旧厩舎へと入ってきたのは、紫陽と同じ年頃の男だった。
「紫陽じゃねぇか」
「ランマっ!」
「よっ」
軽く手を挙げると、牧草を貰ってくぜ、と荷車を奥へと勧めた。
「珍しいな。お前さんがここでボーッとしてるなんて」
昔はよくしてたけど、と幼馴染である嵐馬は、積み上がったサイレージの上に身軽に乗った。
「今日は診療所は休みか?」
「侑士先生が、今日は休んでって」
ゆうしセンセー、と考え、ああ、と嵐馬は言う。
「例の『アイドル先生』な」
「『アイドル先生』?」
首を傾げた紫陽。
「ちょっと前から、紫陽の所に来たらしいじゃねぇの。
小娘たちがキャーキャー言ってるぜ。
『かっこいい男性のドクターが来た』って。
ほれ、リナんとこの娘っ子を取り上げたっていうやつだろ?
周りは大わらわしてる中で、あれがいるこれがいる、ってテキパキして、紫陽の指示もきちんと理解してたって。
医者ってのは、男でも出産に向き合うもんなんだな」
すげえよ、と荷車にサイレージを積む嵐馬。
「なんちゅう顔してんだ」
「え?」
何が?と紫陽は自身の頬に触れる。
「旦那褒められたみたいな顔してんぜ?」
ニヤッ、と笑う嵐馬。
「紫陽ちゃんに遅い春が来たか?」
「〜バカなこと言わないでっ!」
「ムキになんなよ」
ケラケラと笑う嵐馬の肩を、もう!と紫陽は叩いた。
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